第3話 窓の外

文字数 417文字

 いつの間にか、また眠ってしまったらしい。次に眼を覚ました時には外はすっかり明るくなっていた。
 寝床を出て、ふと窓の格子越しに中庭の(やしろ)を眺めた藤音は、あら? と形のよい唇を動かした。
 白の上着に紅袴。長い髪をひとつにまとめた、いつもの桜花(おうか)の姿がない。
 代りに別の侍女が社の周囲を掃き清めている。
 窓の外を眺めたままの藤音に隼人が声をかける。
「外に何か?」
「今朝は桜花の姿が見えないと思って……」
 天宮(あまみや)桜花は九条家に仕える巫女であり、舞いの名手でもある。天女の末裔と言われる家系に生まれ、癒しの力を持った不思議な少女だ。
 とはいえ日頃はごく普通の娘であり、いつもなら桜花がせっせと城の中庭にある小さな社の手入れをしている様子が見えるのだが。
「桜花どのなら今日は休みで、遠海(とおみ)の祖父どのに会いに行くという話だったけど」
「遠海に……」
 藤音は夏の間過ごした海辺の村を懐かしく思い出した。波音の響くあの里で、自分たちは初めて心が通いあったのだ。




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登場人物紹介

九条隼人(くじょうはやと)


若き聡明な草薙の領主。大切なものを守るため、心ならずも異国との戦に身を投じる。

「鬼哭く里の純恋歌」の人物イラストとイメージが少し異なっています。優しいだけではない、乱世に生きる武人としての姿を見てあげてください。

藤音(ふじね)


隼人の正室。人質同然の政略結婚であったが、彼の誠実な優しさにふれ、心から愛しあうようになる。

夫の留守を守り、自分にできる最善を尽くす。

天宮桜花(あまみやおうか)


九条家に仕える巫女。天女の末裔と言われ、破魔と癒しの力を持つ優しい少女。舞の名手。

幼馴染の伊織と祝言を挙げる予定だが、後任探しが難航し、巫女の座を降りられずにいる。

桐生伊織(きりゅういおり)


桜花の婚約者。婚礼の準備がなかなか進まないのが悩みの種。

武芸に秀で、隼人の護衛として戦に赴く。

柊蘇芳(ひいらぎすおう)


隼人とはいとこだが、彼を疎んじている。美貌の武将。

帝の甥で強大な権力を持ち、その野心を異国への出兵に向ける。

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の長。戦の渦中で隼人の運命に大きくかかわっていく。

白瑛(はくえい)


王都での残党狩りの時、隼人がわざと見逃した少年。実はその素性は……。

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