第7話 古来より巫女とは

文字数 480文字

 天宮家は代々主君に仕える神官や巫女を輩出してきた家系だ。今日は二人そろって報告と相談の両方に来たのである。
 うむ、と祖父は腕組みをした。
「そなたは九条家に仕える巫女なのだから、まずは殿のお許しをいただかねばならん。それから後任の者を探さなくては」
 桜花は考えを巡らせてみたが、特にこれといった心当たりは浮かばない。
「その件はわしの方でも探してみよう。九条家に直接お仕えし、神事を執り行う者じゃ。慎重に選ばんと」
 そこで祖父がうっほん、と咳払いする。
「ところで桜花」
 名指しされて桜花は祖父に視線を向ける。
「早くひ孫の顔を見たいのはやまやまじゃが、正式に巫女の座を辞し、祝言を挙げるまでは……いかんぞ」
「え?」
 大きな瞳をさらに見開いて、桜花は祖父の顔を見つめた。伊織も何のことか理解できず、二人は顔を見あわせる。
「いけないとは、何がいけないのでしょうか?」
 祖父は言いよどんで、再び咳払いした。
「いや、だから、そなたは今もまだ天宮の巫女であろう」
「さようですが……」
「古来より巫女とは清らかな乙女と決まっておる。ええい、この意味がわからぬかっ」
「── !!




ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

九条隼人(くじょうはやと)


若き聡明な草薙の領主。大切なものを守るため、心ならずも異国との戦に身を投じる。

「鬼哭く里の純恋歌」の人物イラストとイメージが少し異なっています。優しいだけではない、乱世に生きる武人としての姿を見てあげてください。

藤音(ふじね)


隼人の正室。人質同然の政略結婚であったが、彼の誠実な優しさにふれ、心から愛しあうようになる。

夫の留守を守り、自分にできる最善を尽くす。

天宮桜花(あまみやおうか)


九条家に仕える巫女。天女の末裔と言われ、破魔と癒しの力を持つ優しい少女。舞の名手。

幼馴染の伊織と祝言を挙げる予定だが、後任探しが難航し、巫女の座を降りられずにいる。

桐生伊織(きりゅういおり)


桜花の婚約者。婚礼の準備がなかなか進まないのが悩みの種。

武芸に秀で、隼人の護衛として戦に赴く。

柊蘇芳(ひいらぎすおう)


隼人とはいとこだが、彼を疎んじている。美貌の武将。

帝の甥で強大な権力を持ち、その野心を異国への出兵に向ける。

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の長。戦の渦中で隼人の運命に大きくかかわっていく。

白瑛(はくえい)


王都での残党狩りの時、隼人がわざと見逃した少年。実はその素性は……。

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み