第77話 自然体
文字数 675文字
慣れとはすごいもので、あれほど船酔いで苦しんでいた九条軍の将兵たちも日を追うごとに症状は軽くなっていき、今では大半の者が回復していた。
行く先が戦場 でさえなければ、楽しい航海だった。
隼人は持ち前の明るさで曽我水軍の者ともすっかり打ち解け、さまざまな海の話を聞かせてもらっている。
そしてお礼にと自分が覚えた羅紗の簡単な言葉を教えている。
「戦といっても羅紗国のすべての者が敵というわけではない。戦闘とは無縁の民と言葉をかわしたり、ひょっとしたら美しい娘御を助けたりする場合があるかもしれない。その時に自分のことを伝え、相手を知ることができるのは、決して悪くないと思うけど」
「美しき娘御を救うとは、ぜひ、そんな機会に恵まれてみたいものですな」
手の空いている者たちは、甲板で隼人を取り囲むように座りこみ、どっと笑い声を上げる。
「不思議なお方ですな、隼人どのは」
少し離れた場所で主を見守る和臣と伊織に、声をかけてきたのは曽我兼光だ。
「気性の荒い海の男たちをこうも和ませてしまうとは。一国の領主だというのに、少しも構えたところがない。自然体とでも申しましょうか。わしも長年生きておりますが、あのようなお方は初めてですぞ」
兄と弟は顔を見あわせると、誇らしげに答えた。
「それがわれらが殿でございます」
しかし充実した航海も終わりを告げようとしていた。明日の朝には船団は羅紗の港、麗江 に到着する予定になっている。
行く先が
隼人は持ち前の明るさで曽我水軍の者ともすっかり打ち解け、さまざまな海の話を聞かせてもらっている。
そしてお礼にと自分が覚えた羅紗の簡単な言葉を教えている。
「戦といっても羅紗国のすべての者が敵というわけではない。戦闘とは無縁の民と言葉をかわしたり、ひょっとしたら美しい娘御を助けたりする場合があるかもしれない。その時に自分のことを伝え、相手を知ることができるのは、決して悪くないと思うけど」
「美しき娘御を救うとは、ぜひ、そんな機会に恵まれてみたいものですな」
手の空いている者たちは、甲板で隼人を取り囲むように座りこみ、どっと笑い声を上げる。
「不思議なお方ですな、隼人どのは」
少し離れた場所で主を見守る和臣と伊織に、声をかけてきたのは曽我兼光だ。
「気性の荒い海の男たちをこうも和ませてしまうとは。一国の領主だというのに、少しも構えたところがない。自然体とでも申しましょうか。わしも長年生きておりますが、あのようなお方は初めてですぞ」
兄と弟は顔を見あわせると、誇らしげに答えた。
「それがわれらが殿でございます」
しかし充実した航海も終わりを告げようとしていた。明日の朝には船団は羅紗の港、