第2話 短い文
文字数 546文字
「申し訳ございません。わたくしのせいで隼人さままで起こしてしまって……」
「そんなことは気にしないでいいけど、どんな夢?」
「……戦 の夢でございます」
夢と片づけてしまうには、あまりに生々しい情景。胸はまだ恐怖に波打っている。
藤音のそんな言葉に隼人の表情がわずかに曇ったが、すぐに微笑して、
「ただの悪い夢だよ」
安心させるように肩を抱き寄せる。
「戦などもう起こらない。こうして藤音がわたしのもとへ嫁いできてくれたのだから」
藤音は隼人より三つ年上で、艶やかな黒髪と透き通るような白い肌の美しい姫だ。
月日の経つのは早いもので、白河 から隣国・草薙 の九条家に嫁いでから、半年近くが過ぎようとしている。
長年に渡る領地争いの果て、和睦の証としての縁組。
人質同然に嫁ぎ、頑なに心を閉ざしていた藤音を変えたのは、夫となった隼人の誠実な優しさだった。
「まだ夜明け前だ。もう少し眠るといい」
藤音の髪を撫でながら、隼人が耳もとで穏やかな声で告げる。
なじんだ腕枕に頭を乗せ、ぬくもりに包まれながら藤音は眼を閉じた。
今度、父に文を書かなくては。
なかなか書けずに今日まできてしまったが、きっと心配しているだろう。
長い文は苦手だから短くていい。
夫に大切にされて藤音は幸せに暮らしております、とだけ……。
「そんなことは気にしないでいいけど、どんな夢?」
「……
夢と片づけてしまうには、あまりに生々しい情景。胸はまだ恐怖に波打っている。
藤音のそんな言葉に隼人の表情がわずかに曇ったが、すぐに微笑して、
「ただの悪い夢だよ」
安心させるように肩を抱き寄せる。
「戦などもう起こらない。こうして藤音がわたしのもとへ嫁いできてくれたのだから」
藤音は隼人より三つ年上で、艶やかな黒髪と透き通るような白い肌の美しい姫だ。
月日の経つのは早いもので、
長年に渡る領地争いの果て、和睦の証としての縁組。
人質同然に嫁ぎ、頑なに心を閉ざしていた藤音を変えたのは、夫となった隼人の誠実な優しさだった。
「まだ夜明け前だ。もう少し眠るといい」
藤音の髪を撫でながら、隼人が耳もとで穏やかな声で告げる。
なじんだ腕枕に頭を乗せ、ぬくもりに包まれながら藤音は眼を閉じた。
今度、父に文を書かなくては。
なかなか書けずに今日まできてしまったが、きっと心配しているだろう。
長い文は苦手だから短くていい。
夫に大切にされて藤音は幸せに暮らしております、とだけ……。