第114話 伊織の決断
文字数 656文字
が、その中で戦場にとどまったままの部隊があった。九条軍である。彼らは自分たちの将を必死に探していたのだ。
一面に生い茂る葦は捜索の邪魔となり、兵たちの焦燥をつのらせる。
伊織は刀を手に葦を薙ぎ払い、時に水軍の兵と斬り結びながら、懸命に隼人の姿を求め続けていた。
霧の中で敵と斬り合ったわずかな時間の後。振り返った視界に隼人の姿はなかった。
あの時、もっと注意していれば……。
悔やんでも悔やみきれない自責の念が伊織を苛む。
時間が経つにつれ、口にこそ出さないが誰しも最悪の事態を想定していた。ならば、せめて亡骸だけでも連れ帰らなくては。
だが隼人は見つからなかった。
戦闘の混乱の中で、忽然と消えてしまったのである。
佐伯の迅速で的確な指示のもと、撤退は完了しつつあった。伝令が、
「一刻も早く街道までお退きくだされ!」
と要請を告げに来る。
伊織自身、これ以上戦場にとどまっていては、死傷者が増えるばかりだと感じていた。
副将である桐生の父も、兄も深手を負っていた。
伊織もまた傷を負っていたが、今は父に代わって指揮を取れるのは自分しかいなかった。
撤退をうながす使者が、再度やって来る。
血が滲むほど唇を噛みしめ、伊織は決断を下した。感情を押し殺した冷徹な言葉が口からほとばしり出た。
「副将・桐生元基の名代として桐生伊織が命ずる。すべての九条軍はすみやかにこの場から撤退せよ!」
一面に生い茂る葦は捜索の邪魔となり、兵たちの焦燥をつのらせる。
伊織は刀を手に葦を薙ぎ払い、時に水軍の兵と斬り結びながら、懸命に隼人の姿を求め続けていた。
霧の中で敵と斬り合ったわずかな時間の後。振り返った視界に隼人の姿はなかった。
あの時、もっと注意していれば……。
悔やんでも悔やみきれない自責の念が伊織を苛む。
時間が経つにつれ、口にこそ出さないが誰しも最悪の事態を想定していた。ならば、せめて亡骸だけでも連れ帰らなくては。
だが隼人は見つからなかった。
戦闘の混乱の中で、忽然と消えてしまったのである。
佐伯の迅速で的確な指示のもと、撤退は完了しつつあった。伝令が、
「一刻も早く街道までお退きくだされ!」
と要請を告げに来る。
伊織自身、これ以上戦場にとどまっていては、死傷者が増えるばかりだと感じていた。
副将である桐生の父も、兄も深手を負っていた。
伊織もまた傷を負っていたが、今は父に代わって指揮を取れるのは自分しかいなかった。
撤退をうながす使者が、再度やって来る。
血が滲むほど唇を噛みしめ、伊織は決断を下した。感情を押し殺した冷徹な言葉が口からほとばしり出た。
「副将・桐生元基の名代として桐生伊織が命ずる。すべての九条軍はすみやかにこの場から撤退せよ!」