第108話 佐伯の決意
文字数 748文字
柊蘇芳は確かに果敢な武人だ。
だがその激しさは時として諸刃の剣だった。
今の蘇芳は己の矜持だけで戦おうとしている。兵の命などかえりみることなく。
苦悩しながらも佐伯は心の内で決意を固めた。
総大将の暴走を止めねばならない。いかなる手段を用いても。
部下たちの不甲斐なさに苛立ち、怒声を発し続ける蘇芳に佐伯はすっと近づき──そして。
次の瞬間、蘇芳の身体がぐらり、と揺れた。
隼人を初め、周囲の人々は何が起こったのか、とっさには理解できなかった。
蘇芳のみぞおちに一発、佐伯の拳が鮮やかに入ったのである。
「佐伯……きさま……」
苦悶の表情を浮かべて蘇芳は佐伯の胸ぐらをつかんだが、そこで意識を失い、倒れこむ。
「お許しくだされ……蘇芳さま」
幼い頃から剣を教え、兵法を教えてきた若者の身体を支えながら、皺の刻まれた頬を涙がひとすじ伝わっていく。
が、感傷も束の間、佐伯は顔を上げ、部屋中に響き渡る声で、
「総大将は人事不省とあいなったゆえ、副将であるこの佐伯が代役を務めもうす。各々がた、異論はござらんな⁉」
並々ならぬ気迫と決意に満ちた老将の言 に、反対する者などいなかった。佐伯は気を失った蘇芳を縛り上げるよう部下に命じた。
「ここで兵を全滅させるわけにはいきもうさぬ。すべてはこの佐伯の独断。責めは老い先短いそれがしが負いましょうぞ」
老武将は己の命をかけて総大将の無謀を止めたのだ。
「九条どの」
佐伯がまっすぐに隼人に視線を当てる。
「先ほど、王宮から撤退し、街道に築いた陣地まで下がると申されたが、策はおありかな?」
はい、と隼人は佐伯を見つめ返した。
だがその激しさは時として諸刃の剣だった。
今の蘇芳は己の矜持だけで戦おうとしている。兵の命などかえりみることなく。
苦悩しながらも佐伯は心の内で決意を固めた。
総大将の暴走を止めねばならない。いかなる手段を用いても。
部下たちの不甲斐なさに苛立ち、怒声を発し続ける蘇芳に佐伯はすっと近づき──そして。
次の瞬間、蘇芳の身体がぐらり、と揺れた。
隼人を初め、周囲の人々は何が起こったのか、とっさには理解できなかった。
蘇芳のみぞおちに一発、佐伯の拳が鮮やかに入ったのである。
「佐伯……きさま……」
苦悶の表情を浮かべて蘇芳は佐伯の胸ぐらをつかんだが、そこで意識を失い、倒れこむ。
「お許しくだされ……蘇芳さま」
幼い頃から剣を教え、兵法を教えてきた若者の身体を支えながら、皺の刻まれた頬を涙がひとすじ伝わっていく。
が、感傷も束の間、佐伯は顔を上げ、部屋中に響き渡る声で、
「総大将は人事不省とあいなったゆえ、副将であるこの佐伯が代役を務めもうす。各々がた、異論はござらんな⁉」
並々ならぬ気迫と決意に満ちた老将の
「ここで兵を全滅させるわけにはいきもうさぬ。すべてはこの佐伯の独断。責めは老い先短いそれがしが負いましょうぞ」
老武将は己の命をかけて総大将の無謀を止めたのだ。
「九条どの」
佐伯がまっすぐに隼人に視線を当てる。
「先ほど、王宮から撤退し、街道に築いた陣地まで下がると申されたが、策はおありかな?」
はい、と隼人は佐伯を見つめ返した。