第150話 敗残兵
文字数 665文字
阿梨は一瞬息を呑んだが、すぐに弓に矢をつがえ、いつでも隼人を援護できるように体勢を整えた。水軍の兵たちも長にならう。
「誰だ⁉ 止まれ!」
隼人は言われるままに足を止め、よく聞こえるよう、はっきりとした口調で呼びかけた。
「立てこもっている者たちに問う。要求は何だ?」
突然聞こえてきた故国の言葉に、とまどいつつも彼らは返答した。
「食糧と船だ。われらは国王探索の命を受けながら、この国に置き去りにされた者。何としても故郷に帰りたい!」
やはり、という考えが脳裏をよぎった。誇らしく特命を受けながら、見捨てられた彼らの絶望は想像に難くない。
「ひとつ訊く。村人たちを傷つけたり、殺めたりはしていないな?」
「当然だ。やむを得ず、このような手段を用いたが、われら武士 の誇りにかけて、戦えぬ民に手を出したりはせぬ」
彼らはいきなり現れ、自分たちの国の言葉で語りかけてくる者の存在を訝しがった。
「そなたは何者だ? なぜわれらと同じ言葉を話す?」
「わたしの名は九条隼人。倭国の者だ。戦場で傷を負ったところを、この国の人々に助けられた」
九条、という名に三人の男たちの表情が動いた。
「貴殿はもしや草薙の九条どのでござるか」
ああ、と肯定する隼人に、
「されば藤音姫の夫君であられるか」
「いかにも、藤音はわが妻だが」
答えながら隼人は内心ひどく驚いていた。まさかこんな遠い異国で藤音の名を耳にしようとは……。
「誰だ⁉ 止まれ!」
隼人は言われるままに足を止め、よく聞こえるよう、はっきりとした口調で呼びかけた。
「立てこもっている者たちに問う。要求は何だ?」
突然聞こえてきた故国の言葉に、とまどいつつも彼らは返答した。
「食糧と船だ。われらは国王探索の命を受けながら、この国に置き去りにされた者。何としても故郷に帰りたい!」
やはり、という考えが脳裏をよぎった。誇らしく特命を受けながら、見捨てられた彼らの絶望は想像に難くない。
「ひとつ訊く。村人たちを傷つけたり、殺めたりはしていないな?」
「当然だ。やむを得ず、このような手段を用いたが、われら
彼らはいきなり現れ、自分たちの国の言葉で語りかけてくる者の存在を訝しがった。
「そなたは何者だ? なぜわれらと同じ言葉を話す?」
「わたしの名は九条隼人。倭国の者だ。戦場で傷を負ったところを、この国の人々に助けられた」
九条、という名に三人の男たちの表情が動いた。
「貴殿はもしや草薙の九条どのでござるか」
ああ、と肯定する隼人に、
「されば藤音姫の夫君であられるか」
「いかにも、藤音はわが妻だが」
答えながら隼人は内心ひどく驚いていた。まさかこんな遠い異国で藤音の名を耳にしようとは……。