第33話 皇家の血筋

文字数 640文字

 今、自分が話さずともいずれは知れるはずだ。
 九条家の公然の秘密というやつだ。
「柊蘇芳どのは、今の(みかど)の甥御にあたられる方。帝にはお子がなく、蘇芳どのを実の息子のように寵愛され、その権力は強大なものなのです」
 藤音も如月もあっけにとられ、口がきけなかった。伊織の話はあまりにも遠い世界で、実感が湧いてこない。
 あの蘇芳が、帝の……。
 だからこの城の者たちは皆、彼にひどく気を使い、遠慮していたのか。
 さらに、もうひとつの事実に気づいたのは藤音が先だった。
「ちょっと待って。あの方が殿のいとこだということは、つまり、隼人さまも皇家の血を引いていると……?」
 さようでございます、と伊織は神妙に答えた。
「でも、そのような話は聞いたことがないわ。隼人さまはわたくしに、ひとことも話してくださらなかった」
「必要ないと思われたからでございましょう。確かに殿は皇家の血筋なれど、正式な皇族ではないのです」
「どういう意味ですの?」
「殿の母君、優華(ゆうか)さまは先代の九条家当主に嫁がれる際、皇族の身分をお捨てになられましたゆえ」
 伊織とて自分が生まれる前の話で、人づてに聞いただけなのだが、とにかく知っている事柄を伝えていく。
「もう二十年近く前、先の帝には三人の皇子の他に二人の皇女がおられました。蘇芳どのの母君である姉の玲華(れいか)さまと、妹の優華さまです」




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登場人物紹介

九条隼人(くじょうはやと)


若き聡明な草薙の領主。大切なものを守るため、心ならずも異国との戦に身を投じる。

「鬼哭く里の純恋歌」の人物イラストとイメージが少し異なっています。優しいだけではない、乱世に生きる武人としての姿を見てあげてください。

藤音(ふじね)


隼人の正室。人質同然の政略結婚であったが、彼の誠実な優しさにふれ、心から愛しあうようになる。

夫の留守を守り、自分にできる最善を尽くす。

天宮桜花(あまみやおうか)


九条家に仕える巫女。天女の末裔と言われ、破魔と癒しの力を持つ優しい少女。舞の名手。

幼馴染の伊織と祝言を挙げる予定だが、後任探しが難航し、巫女の座を降りられずにいる。

桐生伊織(きりゅういおり)


桜花の婚約者。婚礼の準備がなかなか進まないのが悩みの種。

武芸に秀で、隼人の護衛として戦に赴く。

柊蘇芳(ひいらぎすおう)


隼人とはいとこだが、彼を疎んじている。美貌の武将。

帝の甥で強大な権力を持ち、その野心を異国への出兵に向ける。

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の長。戦の渦中で隼人の運命に大きくかかわっていく。

白瑛(はくえい)


王都での残党狩りの時、隼人がわざと見逃した少年。実はその素性は……。

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