第76話 櫓のこぎ方
文字数 736文字
船底の入り口まで来ると、隼人はちょうど櫓の漕ぎ方を教わっているところだった。
年若い水夫の一人と交代して、教えられた通りに櫓を動かそうとするが、なかなか思うようにはできず、一糸乱れぬ櫓の動きの中で、そこだけがずれている。
お世辞にも上手とはいえないものの、懸命に櫓を握る姿に兼光は眼を細めた。かえすがえす婿に欲しいと思うが……いや、この話は止めておこう。
和臣は苦笑し、伊織は隼人を迎えに、揺れる船底の通路を均衡を取りながら歩いていった。
「殿」
櫓と悪戦苦闘していた隼人は、呼ばれて初めて伊織に気づく。
「ああ、伊織。大変だね、櫓を漕ぐというのは」
「お気がすみましたか? あまり長居をしては作業の邪魔になりますぞ。上に戻りましょう」
確かに、と隼人は櫓から手を離した。見れば、手のひらには早くも大きな豆ができている。
立ち上がり、代わってくれた漕ぎ手と再び入れ替わる。
「いろいろありがとう。勉強させてもらった」
とんでもございません、と漕ぎ手の若者はかしこまって答えた。
「むさくるしい場所ですが、お気が向いたら、またいつでもお越しください。櫓の扱いは慣れるほどに上達いたします」
「本当に? また来てもよいかな」
「もちろんでございます」
若者が応じると、隼人は顔いっぱいに笑みを浮かべる。
伊織は感心してやりとりを聞いていた。二人はもう親しい友人のようだ。
身分に関係なく、誰とでもすぐに打ち解けてしまうのは、隼人の特技といっていい。
結局、隼人は手の豆にもめげずに船底に通い続け、羅紗に着く頃には何とか一人前に櫓を漕げるようになったのだった。
年若い水夫の一人と交代して、教えられた通りに櫓を動かそうとするが、なかなか思うようにはできず、一糸乱れぬ櫓の動きの中で、そこだけがずれている。
お世辞にも上手とはいえないものの、懸命に櫓を握る姿に兼光は眼を細めた。かえすがえす婿に欲しいと思うが……いや、この話は止めておこう。
和臣は苦笑し、伊織は隼人を迎えに、揺れる船底の通路を均衡を取りながら歩いていった。
「殿」
櫓と悪戦苦闘していた隼人は、呼ばれて初めて伊織に気づく。
「ああ、伊織。大変だね、櫓を漕ぐというのは」
「お気がすみましたか? あまり長居をしては作業の邪魔になりますぞ。上に戻りましょう」
確かに、と隼人は櫓から手を離した。見れば、手のひらには早くも大きな豆ができている。
立ち上がり、代わってくれた漕ぎ手と再び入れ替わる。
「いろいろありがとう。勉強させてもらった」
とんでもございません、と漕ぎ手の若者はかしこまって答えた。
「むさくるしい場所ですが、お気が向いたら、またいつでもお越しください。櫓の扱いは慣れるほどに上達いたします」
「本当に? また来てもよいかな」
「もちろんでございます」
若者が応じると、隼人は顔いっぱいに笑みを浮かべる。
伊織は感心してやりとりを聞いていた。二人はもう親しい友人のようだ。
身分に関係なく、誰とでもすぐに打ち解けてしまうのは、隼人の特技といっていい。
結局、隼人は手の豆にもめげずに船底に通い続け、羅紗に着く頃には何とか一人前に櫓を漕げるようになったのだった。