第91話 街道を北へ
文字数 662文字
もちろん羅紗の水軍の脅威は、兼光とて充分に承知している。
「ご心配、感謝いたします。されどわれらも長年水軍として生きてきた者。わが曽我水軍の役目は、麗江の港と制海権の確保でござる。この海域は兵糧を輸送する重要な場所。もし補給路が断たれれば、兵は飢えに苦しむことになります」
兼光は一度言葉を切り、決意をこめて隼人を見つめた。
「これが老いたわしの最後の戦 となりましょう。ご案じめさるな。ここは必ずや守り抜きまする」
ご武運をお祈りします、と隼人が述べると、兼光は小さく笑い、他の者には聞こえないよう声をひそめて告げた。
「道中くれぐれもお気をつけて。共に力を尽くし、この大義なき戦、一日も早く終わらせましょうぞ」
曽我水軍と別れ、九条軍は街道を北へと進んでいった。将である隼人と副将の桐生元基だけには現地で馬が用意されていた。
王都・戴河 へと続く大きな街道は、本来なら人々で賑わいを見せるのだろうが、今は民衆の姿はない。
赤茶けた土の道を乾いた風が吹き、埃を舞い上げていく。その街道沿いにも、所々に亡骸が横たわっている。
しばらく進むと隼人は馬の足を止めた。まだ休憩には早かったが、兵たちに伝えておきたいことがある。
将に付き従っていた軍勢も動きを止めた。馬上から隼人は兵たちを見渡し、口を開いた。
「皆に聞いて欲しいことがある」
遠くの者にも聞こえるように、はっきりとした口調で語り出す。
「ご心配、感謝いたします。されどわれらも長年水軍として生きてきた者。わが曽我水軍の役目は、麗江の港と制海権の確保でござる。この海域は兵糧を輸送する重要な場所。もし補給路が断たれれば、兵は飢えに苦しむことになります」
兼光は一度言葉を切り、決意をこめて隼人を見つめた。
「これが老いたわしの最後の
ご武運をお祈りします、と隼人が述べると、兼光は小さく笑い、他の者には聞こえないよう声をひそめて告げた。
「道中くれぐれもお気をつけて。共に力を尽くし、この大義なき戦、一日も早く終わらせましょうぞ」
曽我水軍と別れ、九条軍は街道を北へと進んでいった。将である隼人と副将の桐生元基だけには現地で馬が用意されていた。
王都・
赤茶けた土の道を乾いた風が吹き、埃を舞い上げていく。その街道沿いにも、所々に亡骸が横たわっている。
しばらく進むと隼人は馬の足を止めた。まだ休憩には早かったが、兵たちに伝えておきたいことがある。
将に付き従っていた軍勢も動きを止めた。馬上から隼人は兵たちを見渡し、口を開いた。
「皆に聞いて欲しいことがある」
遠くの者にも聞こえるように、はっきりとした口調で語り出す。