第67話 瀬奈
文字数 606文字
見送りの人々でごった返す中、ようやく桜花は伊織の姿を見つけ、声をかけようとする。が、それより早く、誰かが呼びかける声がした。
「和臣さま!」
喧騒の中でもよく通る声だった。桜花も、桟橋へ向かっていた四人も一斉に振り返る。
そこにはすらりとした美しい娘が立っていた。理知的で、しっかりした意志を感じさせる顔立ちである。
今しがた駆けつけてきたのだろう、娘は大きく息を弾ませ、胸に手を当てている。
驚いて口を開いたのは和臣だった。
「瀬奈 どの……」
「よかった、間にあって」
瀬奈と呼ばれた娘は、早足に和臣のもとへ歩み寄った。
「見送りはいらぬと言われましたが、どうしても出発の前に、ひと目お会いしたくて……」
娘の姿を見つめながら、和臣はとまどい気味に、
「困ります。わたしは任務中なのですよ」
瀬奈は和臣のそばにいる二人に眼をやり、はっとした。あわてて数歩下がり、深々と頭を下げる。
「これは大変失礼いたしました。ご領主さまと奥方さまの前とは存じませず、申し訳ございません」
恐縮する娘に、藤音は柔らかく笑いかけた。
「かまいませんよ。大切な人を見送りたいという気持ちは、誰しも同じ。で、和臣どの、こちらの娘さんはどなた? 紹介してくださいな」
藤音に乞われては紹介しないわけにはいかない。和臣は軽く咳払いしてから話し出した。
「こちらの娘御は石上 瀬奈と申します。わたしが羅紗から戻ったら、正式に婚約するつもりでおります」
「和臣さま!」
喧騒の中でもよく通る声だった。桜花も、桟橋へ向かっていた四人も一斉に振り返る。
そこにはすらりとした美しい娘が立っていた。理知的で、しっかりした意志を感じさせる顔立ちである。
今しがた駆けつけてきたのだろう、娘は大きく息を弾ませ、胸に手を当てている。
驚いて口を開いたのは和臣だった。
「
「よかった、間にあって」
瀬奈と呼ばれた娘は、早足に和臣のもとへ歩み寄った。
「見送りはいらぬと言われましたが、どうしても出発の前に、ひと目お会いしたくて……」
娘の姿を見つめながら、和臣はとまどい気味に、
「困ります。わたしは任務中なのですよ」
瀬奈は和臣のそばにいる二人に眼をやり、はっとした。あわてて数歩下がり、深々と頭を下げる。
「これは大変失礼いたしました。ご領主さまと奥方さまの前とは存じませず、申し訳ございません」
恐縮する娘に、藤音は柔らかく笑いかけた。
「かまいませんよ。大切な人を見送りたいという気持ちは、誰しも同じ。で、和臣どの、こちらの娘さんはどなた? 紹介してくださいな」
藤音に乞われては紹介しないわけにはいかない。和臣は軽く咳払いしてから話し出した。
「こちらの娘御は