第84話 出迎え

文字数 717文字

 桟橋には出迎えとおぼしき壮年の武将が部下を従えて立っていた。接岸し、隼人と兼光が船を降りると大股に歩み寄ってくる
「真砂の水軍の将・曽我兼光どのと、草薙の軍の将・九条隼人どのでござるか」
 いかにも、と兼光が返答すると、
「手前はこの麗江の港を守備する司令官、敷島(しきしま)大吾(だいご)と申す。海を越えて遠路はるばる、よう参られた」
 兼光に頭を下げた敷島は、隣の隼人に視線を移すと意外そうな声を出した。
「おや、草薙の軍の将はずいぶんとお若い。まるで(わらべ)のようではござらぬか」
 顎に手をやり、無遠慮に隼人を眺めまわす。
 若すぎる上に小柄で細っこく、どう見ても頼りない。これで本当に将が務まるのか。
「どうやら草薙は人材が不足しておられるようですな」
 無礼極まりないもの言いに、隼人のそばに控えていた和臣と伊織は気色ばんだが、この二人とて敷島から見ればただの若造にすぎない。
 無言のままの主に代わって何か言い返してやりたかったが、相手はこの地の司令官である。
 下手なことを口走って隼人の立場を悪くはできない。
 背後から威厳ある声が聞こえてきたのは、そんな時だった。
「外見だけで人を判断してはなりませぬぞ」
 よく知っている毅然とした口調に、兄と弟は同時に振り返って顔を輝かせた。
 別の船に乗っていた父が桟橋に降りてきたのだ。
 万一の場合を考え、副将である父は敢えて大将船とは別の船に乗っていたのである。
「わが(あるじ)は確かに年若いが、その知略にて長年に渡る領地争いを終わらせた者。ゆめゆめ侮りめさるな」




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登場人物紹介

九条隼人(くじょうはやと)


若き聡明な草薙の領主。大切なものを守るため、心ならずも異国との戦に身を投じる。

「鬼哭く里の純恋歌」の人物イラストとイメージが少し異なっています。優しいだけではない、乱世に生きる武人としての姿を見てあげてください。

藤音(ふじね)


隼人の正室。人質同然の政略結婚であったが、彼の誠実な優しさにふれ、心から愛しあうようになる。

夫の留守を守り、自分にできる最善を尽くす。

天宮桜花(あまみやおうか)


九条家に仕える巫女。天女の末裔と言われ、破魔と癒しの力を持つ優しい少女。舞の名手。

幼馴染の伊織と祝言を挙げる予定だが、後任探しが難航し、巫女の座を降りられずにいる。

桐生伊織(きりゅういおり)


桜花の婚約者。婚礼の準備がなかなか進まないのが悩みの種。

武芸に秀で、隼人の護衛として戦に赴く。

柊蘇芳(ひいらぎすおう)


隼人とはいとこだが、彼を疎んじている。美貌の武将。

帝の甥で強大な権力を持ち、その野心を異国への出兵に向ける。

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の長。戦の渦中で隼人の運命に大きくかかわっていく。

白瑛(はくえい)


王都での残党狩りの時、隼人がわざと見逃した少年。実はその素性は……。

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