第30話 非礼
文字数 482文字
一瞬、蘇芳の眼が見開かれ、続いて高笑いが響いた。
「これはまあ、なんと殊勝な」
額に手をやり、おかしそうに笑う。そしてぽつりと、
「……あいつは、誰からも愛されるのだな」
「え?」
真意をはかりかねて藤音は聞き返したが、返答はなかった。代りに今度は顎に指がかけられ、強引に蘇芳の方を向かされる。
「そう邪険にするな。その健気さ、ますます気に入ったぞ」
「お離しくださいませ!」
藤音は語気を強めた。ここまで非礼が過ぎると、もはや客人だからと遠慮してはいられない。
きっと蘇芳を見すえた時、藤音は自分を呼ぶ声を聞いた。
「藤音さま、どちらでございます?」
聞き慣れた如月の声が天の助けに思えた。姿の見えない自分を探しに来てくれたのだ。
「如月、わたくしはここよ!」
広間の人々のざわめきの中、藤音も声を張り上げて如月に呼びかける。
「乳母が探しておりますので、失礼いたします」
思いきって蘇芳の手を振り払い、廊下に出て来た如月の方へ逃げるように急ぐ。
「まあ、藤音さま、こんなところにおいでに……」
言いかけて如月は眼をまるくした。藤音が助けを求めるようにしがみついてきたのである。
「これはまあ、なんと殊勝な」
額に手をやり、おかしそうに笑う。そしてぽつりと、
「……あいつは、誰からも愛されるのだな」
「え?」
真意をはかりかねて藤音は聞き返したが、返答はなかった。代りに今度は顎に指がかけられ、強引に蘇芳の方を向かされる。
「そう邪険にするな。その健気さ、ますます気に入ったぞ」
「お離しくださいませ!」
藤音は語気を強めた。ここまで非礼が過ぎると、もはや客人だからと遠慮してはいられない。
きっと蘇芳を見すえた時、藤音は自分を呼ぶ声を聞いた。
「藤音さま、どちらでございます?」
聞き慣れた如月の声が天の助けに思えた。姿の見えない自分を探しに来てくれたのだ。
「如月、わたくしはここよ!」
広間の人々のざわめきの中、藤音も声を張り上げて如月に呼びかける。
「乳母が探しておりますので、失礼いたします」
思いきって蘇芳の手を振り払い、廊下に出て来た如月の方へ逃げるように急ぐ。
「まあ、藤音さま、こんなところにおいでに……」
言いかけて如月は眼をまるくした。藤音が助けを求めるようにしがみついてきたのである。