第42話 衝動
文字数 644文字
同じ頃、隼人はひとりでぼんやりと部屋の壁を眺めていた。
どうやって自室まで戻ってきたのか、あまりよく覚えていない。
ああ、そうだ。
蘇芳が羅紗国を攻めると宣言して、草薙からも兵を出すようにと……。
そこで宴は終わりとなり、人々は動揺しながらも各々の部屋に帰っていった。
のんびり呆けている場合ではない、とわかってはいるのだが、頭の芯が麻痺しているかのようだ。
隼人は二、三度頭を振り、手だてを考えなくては、と自分に言いきかせた。
父の跡を継いで領主となった時から、領地と領民を守ることが隼人の最大の使命だった。
今までにも困難はいくつもあった。その度、強い意志と渾身の知恵で乗り切ってきた。
だが、今回は。あまりにも強大な権力の前に打つ手がなかった。
もし拒めば、蘇芳は何のためらいもなく草薙を蹂躙するだろう。
草薙を守るためには、蘇芳の──帝の命令に従い、羅紗へと出兵するしか道はないのか。
そう思った瞬間、身体の奥から強い衝動がこみあげてきて、隼人は思わず拳で壁を叩いた。
──嫌だ。
何度も壁を叩きながら、あえぐように息をした。吐き気すらしてくる。
領民を守るためとはいえ、平和に暮らしている他国の人々を殺戮に行くなど、嫌だ!
「隼人さま ⁉」
耳に入ってくる、自分を呼ぶ声。
「おやめください、手が……!」
駆け寄ってきた藤音が隼人の腕にしがみつく。
どうやって自室まで戻ってきたのか、あまりよく覚えていない。
ああ、そうだ。
蘇芳が羅紗国を攻めると宣言して、草薙からも兵を出すようにと……。
そこで宴は終わりとなり、人々は動揺しながらも各々の部屋に帰っていった。
のんびり呆けている場合ではない、とわかってはいるのだが、頭の芯が麻痺しているかのようだ。
隼人は二、三度頭を振り、手だてを考えなくては、と自分に言いきかせた。
父の跡を継いで領主となった時から、領地と領民を守ることが隼人の最大の使命だった。
今までにも困難はいくつもあった。その度、強い意志と渾身の知恵で乗り切ってきた。
だが、今回は。あまりにも強大な権力の前に打つ手がなかった。
もし拒めば、蘇芳は何のためらいもなく草薙を蹂躙するだろう。
草薙を守るためには、蘇芳の──帝の命令に従い、羅紗へと出兵するしか道はないのか。
そう思った瞬間、身体の奥から強い衝動がこみあげてきて、隼人は思わず拳で壁を叩いた。
──嫌だ。
何度も壁を叩きながら、あえぐように息をした。吐き気すらしてくる。
領民を守るためとはいえ、平和に暮らしている他国の人々を殺戮に行くなど、嫌だ!
「隼人さま ⁉」
耳に入ってくる、自分を呼ぶ声。
「おやめください、手が……!」
駆け寄ってきた藤音が隼人の腕にしがみつく。