第45話 結論

文字数 527文字

 朝、小鳥のさえずりで藤音は眼を覚ました。
 ──え?
 自分でも驚きながら、あわてて身を起こす。
 隼人と一緒に起きているつもりだったのに、すっかり眠ってしまったのだ。
 しかも知らないうちに、ちゃんと床に寝かされ、布団までかけられている。
 これでは夫と運命を共にすると決めた、健気な妻の立場がないではないか。
 赤面しつつ、部屋の中を見回すと、隼人はやや離れた場所で窓の外を眺めていた。
 隼人は少しは眠れただろうか。
 藤音の視線に気づくと、隼人は笑いかけた。眼は赤いが、ふっきれたように表情はすがすがしかった。
 語らずとも藤音にはわかった。隼人は心を決めたのだ。
 二人は居住まいを正して向かいあった。隼人がゆっくりと口を開く。
「わたしは行くよ、藤音」
 まっすぐに瞳を見つめ、決心を語っていく。
「この土地と領民たちを守らなければならない。妻であるそなたも」
「はい」
「羅紗に行って、かの地で能う限り、一刻も早く戦いを終わらせるべく努力しようと思う」
 言葉にしてしまえば、何と簡単なのだろう。
 それが悩みぬいた末に隼人の出した結論だった。




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登場人物紹介

九条隼人(くじょうはやと)


若き聡明な草薙の領主。大切なものを守るため、心ならずも異国との戦に身を投じる。

「鬼哭く里の純恋歌」の人物イラストとイメージが少し異なっています。優しいだけではない、乱世に生きる武人としての姿を見てあげてください。

藤音(ふじね)


隼人の正室。人質同然の政略結婚であったが、彼の誠実な優しさにふれ、心から愛しあうようになる。

夫の留守を守り、自分にできる最善を尽くす。

天宮桜花(あまみやおうか)


九条家に仕える巫女。天女の末裔と言われ、破魔と癒しの力を持つ優しい少女。舞の名手。

幼馴染の伊織と祝言を挙げる予定だが、後任探しが難航し、巫女の座を降りられずにいる。

桐生伊織(きりゅういおり)


桜花の婚約者。婚礼の準備がなかなか進まないのが悩みの種。

武芸に秀で、隼人の護衛として戦に赴く。

柊蘇芳(ひいらぎすおう)


隼人とはいとこだが、彼を疎んじている。美貌の武将。

帝の甥で強大な権力を持ち、その野心を異国への出兵に向ける。

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の長。戦の渦中で隼人の運命に大きくかかわっていく。

白瑛(はくえい)


王都での残党狩りの時、隼人がわざと見逃した少年。実はその素性は……。

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