第69話 許嫁として
文字数 601文字
「要は和臣どのが無事に帰ってくればよいのです。約束は待つ女にとって、心のよりどころとなる大切なもの。わたくしだけでは不足なら、殿にも立会人となっていただきますが」
「ふ、不足などと、めっそうもございませぬ!」
すっかり冷静さを失い、狼狽する和臣に藤音がにこやかに笑う。
「では、異存はありませんね。わたくしが二人の婚約を認めましょう」
「ありがとうございます、奥方さま。心から感謝いたします」
瀬奈はもう一度深々と頭を下げると、和臣の方に向き直った。
「どうぞご無事にお戻りくださいませ。瀬奈は和臣さまの許嫁として、お帰りをお待ちいたします」
思いもよらない展開に、和臣は観念したように微笑した。
「奥方さまのご命令とあらば逆らえませぬな。瀬奈どの、待っていてください。必ず生きて帰ります」
はい、とうなずく瀬奈の眼には涙が光っている。
一連のやりとりを聞きながら、伊織は口の中でうなっていた。
兄に婚約するような相手がいたのも驚きだが、それ以上に感心したのは思慮の深さだった。
相手のためを思えばこそ、婚約を延ばしていたとは。
比べて、自分はそんなことはろくに考えもせず、昨夜は桜花と寄り添い(誓いを守ってあくまで添い寝だが)互いの体温を感じながら、いつしかぐっすり眠りについてしまった。
「ふ、不足などと、めっそうもございませぬ!」
すっかり冷静さを失い、狼狽する和臣に藤音がにこやかに笑う。
「では、異存はありませんね。わたくしが二人の婚約を認めましょう」
「ありがとうございます、奥方さま。心から感謝いたします」
瀬奈はもう一度深々と頭を下げると、和臣の方に向き直った。
「どうぞご無事にお戻りくださいませ。瀬奈は和臣さまの許嫁として、お帰りをお待ちいたします」
思いもよらない展開に、和臣は観念したように微笑した。
「奥方さまのご命令とあらば逆らえませぬな。瀬奈どの、待っていてください。必ず生きて帰ります」
はい、とうなずく瀬奈の眼には涙が光っている。
一連のやりとりを聞きながら、伊織は口の中でうなっていた。
兄に婚約するような相手がいたのも驚きだが、それ以上に感心したのは思慮の深さだった。
相手のためを思えばこそ、婚約を延ばしていたとは。
比べて、自分はそんなことはろくに考えもせず、昨夜は桜花と寄り添い(誓いを守ってあくまで添い寝だが)互いの体温を感じながら、いつしかぐっすり眠りについてしまった。