第71話 覚悟してはいても
文字数 594文字
隼人たち三人が乗りこむと、渡してあった板が外され、船がゆっくりと動き出す。
甲板から多くの将兵に混じって三人が手を振る。女たちもまた見送りの人々の中、大きく手を振り返す。
覚悟してはいても、愛しい者を乗せた船が遠ざかっていくさまは、胸が引き裂かれるように痛んで、藤音は唇をぎゅっと噛みしめた。
何ともどかしいのだろう。自分にできるのは、無事を祈って待つだけだ。
はるか遠く水平線の彼方に船影が見えなくなるまで、女たちはじっと桟橋に佇んでいた。
やがて船は完全に視界から消え、見送りの人々も潮が引くように去っていく。
冷たい海風に桜花は身震いした。気がつくと身体がすっかり冷たくなってしまっている。
桟橋に残っているのは、自分たちと藤音の護衛の者くらいだ。
寒風の中、刀を下げた二人の初老の侍はやや離れた場所で、藤音にひっそりと付き従っている。
水平線を見つめたまま、身じろぎもしない藤音に桜花はそっと声をかけた。
「お身体が冷えてしまいますわ、藤音さま。わたくしの祖父の屋敷が近くにございます。立ち寄って、暖かいお茶をたててもらいましょう。瀬奈さまも、どうぞご一緒に。そちらの護衛の方々も」
桜花にうながされ、残された女たちは身を寄せあうようにして、ゆっくりと歩き出した。
甲板から多くの将兵に混じって三人が手を振る。女たちもまた見送りの人々の中、大きく手を振り返す。
覚悟してはいても、愛しい者を乗せた船が遠ざかっていくさまは、胸が引き裂かれるように痛んで、藤音は唇をぎゅっと噛みしめた。
何ともどかしいのだろう。自分にできるのは、無事を祈って待つだけだ。
はるか遠く水平線の彼方に船影が見えなくなるまで、女たちはじっと桟橋に佇んでいた。
やがて船は完全に視界から消え、見送りの人々も潮が引くように去っていく。
冷たい海風に桜花は身震いした。気がつくと身体がすっかり冷たくなってしまっている。
桟橋に残っているのは、自分たちと藤音の護衛の者くらいだ。
寒風の中、刀を下げた二人の初老の侍はやや離れた場所で、藤音にひっそりと付き従っている。
水平線を見つめたまま、身じろぎもしない藤音に桜花はそっと声をかけた。
「お身体が冷えてしまいますわ、藤音さま。わたくしの祖父の屋敷が近くにございます。立ち寄って、暖かいお茶をたててもらいましょう。瀬奈さまも、どうぞご一緒に。そちらの護衛の方々も」
桜花にうながされ、残された女たちは身を寄せあうようにして、ゆっくりと歩き出した。