第31話 うってつけの人材
文字数 576文字
「よかった、如月が来てくれて」
心底、安堵する藤音の様子に、如月は不審げに問いかける。
「どうなさいましたの、藤音さま? 客人に何か言われましたの?」
「都に来ないかと誘われたわ。側室にして思うまま贅沢をさせてやると」
「んまぁ、何ですって⁉」
よりにもよって当主の奥方に言い寄るなど、とんでもない輩だ。
藤音をかばうように立ち、如月は蘇芳を睨みつけた。
蘇芳は飄々とした表情で、やれやれ、邪魔が入ったな、という風に肩をすくめてみせる。
いったい何者なのだろう、この柊蘇芳という人物は。
藤音にも如月にもわからないことだらけだ。
なぜ城の主である隼人は自分の席を明け渡しているのか。どうして皆このような横柄な客を黙認しているのか。
「わからぬのなら確かめるしかございませんね」
軽く唇を噛むと、如月はあたりに視線を巡らせた。誰か、適当な相手をつかまえて、この理不尽な事態を説明してもらわなくては。
そこへちょうど空になった膳を持った伊織が通りがかり、如月はにんまりと笑った。話を聞くにはうってつけの人材だ。
「伊織どの」
廊下の隅で如月は小声で呼び止め、手招きする。
忙しげに動いていた伊織は膳をかかえたまま、二人のもとへやって来た。
心底、安堵する藤音の様子に、如月は不審げに問いかける。
「どうなさいましたの、藤音さま? 客人に何か言われましたの?」
「都に来ないかと誘われたわ。側室にして思うまま贅沢をさせてやると」
「んまぁ、何ですって⁉」
よりにもよって当主の奥方に言い寄るなど、とんでもない輩だ。
藤音をかばうように立ち、如月は蘇芳を睨みつけた。
蘇芳は飄々とした表情で、やれやれ、邪魔が入ったな、という風に肩をすくめてみせる。
いったい何者なのだろう、この柊蘇芳という人物は。
藤音にも如月にもわからないことだらけだ。
なぜ城の主である隼人は自分の席を明け渡しているのか。どうして皆このような横柄な客を黙認しているのか。
「わからぬのなら確かめるしかございませんね」
軽く唇を噛むと、如月はあたりに視線を巡らせた。誰か、適当な相手をつかまえて、この理不尽な事態を説明してもらわなくては。
そこへちょうど空になった膳を持った伊織が通りがかり、如月はにんまりと笑った。話を聞くにはうってつけの人材だ。
「伊織どの」
廊下の隅で如月は小声で呼び止め、手招きする。
忙しげに動いていた伊織は膳をかかえたまま、二人のもとへやって来た。