第90話 進軍
文字数 669文字
総大将の命令に従い、次の日から九条軍は進軍を開始した。
司令官の敷島はちらりと顔を出しただけだったが、曽我兼光は自分の率いる水軍と共に出立を見送ってくれた。
「曽我さま、この度は羅紗までの海路を送っていただき、誠にありがとうございました」
隼人が心から礼を述べると、兼光は首を横に振り、
「いやいや、大したことではござらん。これで終わりではありませんぞ。行程はまだ半ば、帰りもあるのですからな」
さようですね、と隼人もうなずき、いくぶん表情を曇らせて、
「実はひとつ、気がかりがございます」
「ほう、気がかりとは?」
「曽我さまならご存知とは思いますが、羅紗国の水軍のことです」
なるほど、と兼光は相槌を打った。
「わたしはここに来る前、この国についていろいろ学びました。その中で羅紗の水軍は特殊な存在であることも知りました」
羅紗の水軍は国王の臣下ではない。海の民・海龍 一族が率いる船団だ。
臣下ではないが、代々王室とは友好関係を保ち、実質的には羅紗の水軍を担っていると言っていい。
「今の時期、海龍一族は西風に乗って交易に出ているはずです」
羅紗は鎖国政策をとっているが、自由な海の民は束縛を受けず、独自に交易を行っている。
「しかしこの事態を知れば、必ずや引き返してくるでしょう」
今までの航海とて安全が保証されていたわけではない。万が一、遭遇した場合に備える意味もあって、兵を分散させて軍船に乗せたのだ。
司令官の敷島はちらりと顔を出しただけだったが、曽我兼光は自分の率いる水軍と共に出立を見送ってくれた。
「曽我さま、この度は羅紗までの海路を送っていただき、誠にありがとうございました」
隼人が心から礼を述べると、兼光は首を横に振り、
「いやいや、大したことではござらん。これで終わりではありませんぞ。行程はまだ半ば、帰りもあるのですからな」
さようですね、と隼人もうなずき、いくぶん表情を曇らせて、
「実はひとつ、気がかりがございます」
「ほう、気がかりとは?」
「曽我さまならご存知とは思いますが、羅紗国の水軍のことです」
なるほど、と兼光は相槌を打った。
「わたしはここに来る前、この国についていろいろ学びました。その中で羅紗の水軍は特殊な存在であることも知りました」
羅紗の水軍は国王の臣下ではない。海の民・
臣下ではないが、代々王室とは友好関係を保ち、実質的には羅紗の水軍を担っていると言っていい。
「今の時期、海龍一族は西風に乗って交易に出ているはずです」
羅紗は鎖国政策をとっているが、自由な海の民は束縛を受けず、独自に交易を行っている。
「しかしこの事態を知れば、必ずや引き返してくるでしょう」
今までの航海とて安全が保証されていたわけではない。万が一、遭遇した場合に備える意味もあって、兵を分散させて軍船に乗せたのだ。