第5話 婚儀の報告

文字数 443文字

 一方、遠海にある天宮家の屋敷では、藤音の想像通り、桜花の祖父である十耶(とおや)が満面の笑みを浮かべていた。
「ほう……決心しなすったか」
 自らたてた抹茶を手に、嬉し気な声を出す。
 髪も髭も真っ白で仙人のごとき十耶は天宮家の当主であり、両親を亡くした桜花の唯一の肉親だ。
 かつては草薙の神職を司る立場にあったが、今は隠居の身で、この海辺の村で静かに暮らしている。
 十耶と向かいあって座った桜花と伊織は、婚儀の報告に来たものの、いざとなると緊張してしまって、どうにも落ち着かない。
「桜花はいくつになったかな」
「十八ですわ、おじいさま。伊織も同じです」
 答える桜花はいつもの巫女装束ではなく、花柄の紫色の小袖姿。伊織は髪を上でまとめ、やや改まった上着と袴を身に着けている。
「いつ二人が一緒になるのかと、楽しみに待っておったのじゃよ。殿にはもう話されたのかな」
「いいえ、まずはおじいさまに、と思って」
「一番に来てくれるとは嬉しいのう。伊織どのは家の方々には?」
「城下に戻ったら父に話すつもりでおります」





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登場人物紹介

九条隼人(くじょうはやと)


若き聡明な草薙の領主。大切なものを守るため、心ならずも異国との戦に身を投じる。

「鬼哭く里の純恋歌」の人物イラストとイメージが少し異なっています。優しいだけではない、乱世に生きる武人としての姿を見てあげてください。

藤音(ふじね)


隼人の正室。人質同然の政略結婚であったが、彼の誠実な優しさにふれ、心から愛しあうようになる。

夫の留守を守り、自分にできる最善を尽くす。

天宮桜花(あまみやおうか)


九条家に仕える巫女。天女の末裔と言われ、破魔と癒しの力を持つ優しい少女。舞の名手。

幼馴染の伊織と祝言を挙げる予定だが、後任探しが難航し、巫女の座を降りられずにいる。

桐生伊織(きりゅういおり)


桜花の婚約者。婚礼の準備がなかなか進まないのが悩みの種。

武芸に秀で、隼人の護衛として戦に赴く。

柊蘇芳(ひいらぎすおう)


隼人とはいとこだが、彼を疎んじている。美貌の武将。

帝の甥で強大な権力を持ち、その野心を異国への出兵に向ける。

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の長。戦の渦中で隼人の運命に大きくかかわっていく。

白瑛(はくえい)


王都での残党狩りの時、隼人がわざと見逃した少年。実はその素性は……。

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