第36話 妬ましさ
文字数 526文字
宮中で、たまたま出会った自分に叔母は柔らかく笑いかけた。
優しげな母に手を引かれ、まだ幼い隼人は珍しそうにあたりをきょろきょろと見回している。
「まあ、蘇芳さま。すっかり成長されて、ご立派になられましたね。隼人、あなたのいとこの柊蘇芳さまですよ。ご挨拶なさい」
母に言われ、幼い息子はぺこりと頭を下げた。
「初めまして。九条隼人と申します」
人懐こい、屈託のない笑顔。よくできましたね、と母に褒められ、はにかみながら笑い返す姿。
その瞬間だった。蘇芳がこのいとこを大嫌いになったのは。
母と子はあんな風にうちとけて笑いあうものなのか。驚きでもあり、妬ましくもあった。
慣習に従い、蘇芳は女官たちに育てられていた。父にも母にも会う機会はめったになかった。
母が叔母のように親しみをこめて笑いかけてくれた記憶など、いくら思い返してもありはしない。
九条の小さな城の広間で酔った人々が陽気に騒ぐ中、蘇芳はひとり胸に手をやった。
自分は正式な皇族であり、帝に寵愛された甥であり、権力も財力も持っている。このちっぽけな城の主などと比べるまでもない。
優しげな母に手を引かれ、まだ幼い隼人は珍しそうにあたりをきょろきょろと見回している。
「まあ、蘇芳さま。すっかり成長されて、ご立派になられましたね。隼人、あなたのいとこの柊蘇芳さまですよ。ご挨拶なさい」
母に言われ、幼い息子はぺこりと頭を下げた。
「初めまして。九条隼人と申します」
人懐こい、屈託のない笑顔。よくできましたね、と母に褒められ、はにかみながら笑い返す姿。
その瞬間だった。蘇芳がこのいとこを大嫌いになったのは。
母と子はあんな風にうちとけて笑いあうものなのか。驚きでもあり、妬ましくもあった。
慣習に従い、蘇芳は女官たちに育てられていた。父にも母にも会う機会はめったになかった。
母が叔母のように親しみをこめて笑いかけてくれた記憶など、いくら思い返してもありはしない。
九条の小さな城の広間で酔った人々が陽気に騒ぐ中、蘇芳はひとり胸に手をやった。
自分は正式な皇族であり、帝に寵愛された甥であり、権力も財力も持っている。このちっぽけな城の主などと比べるまでもない。