第82話 真の勝利とは
文字数 621文字
ふと和臣は顔を上げ、頭上の空を見た。つられて伊織も上を向くと満天の星空が広がっている。
何年ぶりだろう、こうして星空を見上げながら兄と語りあうのは。
しかし子供の頃を懐かしんでいた伊織に、和臣はまったく別の話題を口にした。
「この度の羅紗行き、われらにとって真の勝利とは何だかわかるか?」
「え?」
唐突に訊かれ、伊織は眼を白黒させた。
正直なところ、参戦が避けられない情勢になり、家臣として主君の決断に従った、その程度の認識だった。
あまり深くは考えないようにしてきた。考えたところでどうしようもなかったせいもある。
「今回の戦には大義が何もない。後世、わたしたちは侵略者のそしりを免れないだろう」
侵略者、と伊織は心の内で繰り返し、愕然とした。自分たちはこの国でそんな風に呼ばれるというのか。
「現実を一番よくわかっておられるのは殿だ。柊蘇芳どのから羅紗攻めを告げられた時も、ずいぶん悩まれたと聞く」
伊織は黙って和臣の話に耳をかたむけた。いつも兄は自分よりはるかに深く物事を考えている。
「だが、殿は領民を守るため、出陣を決意された。そうしなければ草薙が滅ぼされかねないからだ」
子供の頃から遊び相手兼護衛として、近くで仕えてきた主だ。人となりはよく知っている。
人一倍、戦を嫌う隼人がどれほど苦しんだか、想像に難くない。
何年ぶりだろう、こうして星空を見上げながら兄と語りあうのは。
しかし子供の頃を懐かしんでいた伊織に、和臣はまったく別の話題を口にした。
「この度の羅紗行き、われらにとって真の勝利とは何だかわかるか?」
「え?」
唐突に訊かれ、伊織は眼を白黒させた。
正直なところ、参戦が避けられない情勢になり、家臣として主君の決断に従った、その程度の認識だった。
あまり深くは考えないようにしてきた。考えたところでどうしようもなかったせいもある。
「今回の戦には大義が何もない。後世、わたしたちは侵略者のそしりを免れないだろう」
侵略者、と伊織は心の内で繰り返し、愕然とした。自分たちはこの国でそんな風に呼ばれるというのか。
「現実を一番よくわかっておられるのは殿だ。柊蘇芳どのから羅紗攻めを告げられた時も、ずいぶん悩まれたと聞く」
伊織は黙って和臣の話に耳をかたむけた。いつも兄は自分よりはるかに深く物事を考えている。
「だが、殿は領民を守るため、出陣を決意された。そうしなければ草薙が滅ぼされかねないからだ」
子供の頃から遊び相手兼護衛として、近くで仕えてきた主だ。人となりはよく知っている。
人一倍、戦を嫌う隼人がどれほど苦しんだか、想像に難くない。