第50話 縁組の意向
文字数 554文字
「実はな、隼人どの──」
いささか意味ありげに微笑して兼光が口を開く。
「隼人どのが奥方を迎えられたと聞いた時は、わしも茉莉香もひどく落胆したものです」
「は?」
言わんとする意味がよくわからず、きょとんとする隼人の前で姫がさらに赤くなる。
「茉莉香がもう少し成長したら、と考えておりましたが、もっと早めに婚約の申し入れだけでもしておくべきでした」
あんぐりと口を開けたまま、隼人は老当主と孫娘を交互に眺めた。どうやら自分のまったく預かり知らぬところで縁組の意向があったらしい。
「わしにも嫡男がおりましたが、戦死しました。跡継ぎがいない今、羅紗行きも老いたわしが指揮を取らねばなりますまい」
兼光は遠い眼をして、わずかに吐息する。
「茉莉香は息子の忘れ形見。この娘は以前お会いした時から、隼人どのを慕っております。わしも長年、手塩にかけてきた曽我水軍を貴殿のような若者に託したかった。今となっては年寄りの繰言ですが……」
何と答えてよいかわからず、隼人が黙ったままでいると、兼光は孫娘に優しいまなざしを向けた。
「茉莉香、わしと隼人どのはこれから戦 の話をしなくてはならんのでな、そなたは少し下がっていなさい。話が終わった後で庭を案内してさしあげるとよい」
姫は、はい、と素直にうなずくと、一礼して客間から去っていった。
いささか意味ありげに微笑して兼光が口を開く。
「隼人どのが奥方を迎えられたと聞いた時は、わしも茉莉香もひどく落胆したものです」
「は?」
言わんとする意味がよくわからず、きょとんとする隼人の前で姫がさらに赤くなる。
「茉莉香がもう少し成長したら、と考えておりましたが、もっと早めに婚約の申し入れだけでもしておくべきでした」
あんぐりと口を開けたまま、隼人は老当主と孫娘を交互に眺めた。どうやら自分のまったく預かり知らぬところで縁組の意向があったらしい。
「わしにも嫡男がおりましたが、戦死しました。跡継ぎがいない今、羅紗行きも老いたわしが指揮を取らねばなりますまい」
兼光は遠い眼をして、わずかに吐息する。
「茉莉香は息子の忘れ形見。この娘は以前お会いした時から、隼人どのを慕っております。わしも長年、手塩にかけてきた曽我水軍を貴殿のような若者に託したかった。今となっては年寄りの繰言ですが……」
何と答えてよいかわからず、隼人が黙ったままでいると、兼光は孫娘に優しいまなざしを向けた。
「茉莉香、わしと隼人どのはこれから
姫は、はい、と素直にうなずくと、一礼して客間から去っていった。