第63話 約束
文字数 662文字
もどかしさがつのり、藤音は大きく首を振った。隼人は何もわかっていない。
「新しい幸せなどと……わたくしの幸せは殿と共にありますのに」
正面から隼人を見すえ、きっぱりと言い放つ。
「生涯、わたくしの夫は九条隼人、ただひとりでございます」
柊蘇芳に宣言した決意は、今も少しも揺るがない。
「しかし、それではわたしに何かあった時、藤音が不憫で……」
「心配してくださるなら、殿がご無事にお戻りになってくださればよいのです」
額に手をやって隼人は苦笑した。
「やれやれ、ずいぶんと無茶を言う」
「少しも無茶ではございません」
藤音は情深く一途な気性だ。こうなると頑として意志を曲げないだろう。
隼人は根負けしたように、
「もちろん、わたしとて生きて帰ってくるつもりだよ」
「ならばお約束してくださいませ。必ずご無事でお帰りになると」
ああ、とうなずく隼人に、
「きっとお守りくださいませね」
満足げに微笑もうとした時だ。急に涙があふれてきて藤音の頬を濡らした。
「明日は泣きませぬ」
眼をこすりながら、自分に言いきかせるようにつぶやく。
「わたくしには九条家当主の奥方として、明日の出陣を見送る務めがございます。ですから明日は泣きませぬ」
精一杯の、凛とした口調。
「されど、今夜は泣かせてくださいませ……」
細い肩を震わせる藤音を隼人は力をこめて抱きしめた。かつてこれほど自分を想ってくれた者があっただろうか。
「新しい幸せなどと……わたくしの幸せは殿と共にありますのに」
正面から隼人を見すえ、きっぱりと言い放つ。
「生涯、わたくしの夫は九条隼人、ただひとりでございます」
柊蘇芳に宣言した決意は、今も少しも揺るがない。
「しかし、それではわたしに何かあった時、藤音が不憫で……」
「心配してくださるなら、殿がご無事にお戻りになってくださればよいのです」
額に手をやって隼人は苦笑した。
「やれやれ、ずいぶんと無茶を言う」
「少しも無茶ではございません」
藤音は情深く一途な気性だ。こうなると頑として意志を曲げないだろう。
隼人は根負けしたように、
「もちろん、わたしとて生きて帰ってくるつもりだよ」
「ならばお約束してくださいませ。必ずご無事でお帰りになると」
ああ、とうなずく隼人に、
「きっとお守りくださいませね」
満足げに微笑もうとした時だ。急に涙があふれてきて藤音の頬を濡らした。
「明日は泣きませぬ」
眼をこすりながら、自分に言いきかせるようにつぶやく。
「わたくしには九条家当主の奥方として、明日の出陣を見送る務めがございます。ですから明日は泣きませぬ」
精一杯の、凛とした口調。
「されど、今夜は泣かせてくださいませ……」
細い肩を震わせる藤音を隼人は力をこめて抱きしめた。かつてこれほど自分を想ってくれた者があっただろうか。