第23話 見知らぬ来訪者

文字数 523文字

「いつもながら本当に急だな。いつ?」
「つい先ほど到着され、今は広間にてお待ちいただいております」
 ひと呼吸、間をおいてから、承知した、と隼人は答えた。
「蘇芳が来ているのなら、待たせるわけにはいかない。すぐに行かないと。それと今夜は宴の用意を」
 はっ、と和臣が一礼して答え、隼人は藤音の方を見て、
「すまない、藤音。急な来客だ。続きはまた今度……」
「わたくしでしたら、お気になさらずに」
 笑顔を向ける藤音に、
「藤音も着替えたら広間に来てほしい。正装でご挨拶しなくては」
 はい、と返答しながらも、藤音は意外な気がした。正装で、などと言われたのは初めてだ。
 藤音にとって不意の見知らぬ来訪者は、さように大切な存在なのだろうか。
「わたしは先に行っているから、和臣、藤音を部屋まで送っていってもらえるかな」
「かしこまりました」
 すべての指示を出し終えると、隼人は急ぎ部屋を出た。
 早足に去っていく後姿を見送りながら、和臣がぼそりとつぶやく。
「やれやれ、また無理難題を持ちこまれねばよいが……」
「え?」
 藤音が聞き返すと、和臣はあわてて打ち消すように首を横に振った。
「いえ、何でもございません。それより奥方さま、お部屋へ戻りましょう。お召替えをなさらなくては」




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登場人物紹介

九条隼人(くじょうはやと)


若き聡明な草薙の領主。大切なものを守るため、心ならずも異国との戦に身を投じる。

「鬼哭く里の純恋歌」の人物イラストとイメージが少し異なっています。優しいだけではない、乱世に生きる武人としての姿を見てあげてください。

藤音(ふじね)


隼人の正室。人質同然の政略結婚であったが、彼の誠実な優しさにふれ、心から愛しあうようになる。

夫の留守を守り、自分にできる最善を尽くす。

天宮桜花(あまみやおうか)


九条家に仕える巫女。天女の末裔と言われ、破魔と癒しの力を持つ優しい少女。舞の名手。

幼馴染の伊織と祝言を挙げる予定だが、後任探しが難航し、巫女の座を降りられずにいる。

桐生伊織(きりゅういおり)


桜花の婚約者。婚礼の準備がなかなか進まないのが悩みの種。

武芸に秀で、隼人の護衛として戦に赴く。

柊蘇芳(ひいらぎすおう)


隼人とはいとこだが、彼を疎んじている。美貌の武将。

帝の甥で強大な権力を持ち、その野心を異国への出兵に向ける。

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の長。戦の渦中で隼人の運命に大きくかかわっていく。

白瑛(はくえい)


王都での残党狩りの時、隼人がわざと見逃した少年。実はその素性は……。

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