第70話 別れ
文字数 658文字
一行の最後を共に歩きつつ、伊織は小声で桜花を呼んだ。
「桜花」
「なあに?」
「もしも俺が羅紗から戻ってこられなかったら、どうする?」
「縁起でもないことを言わないで」
「万が一の話だ。桜花はどうする?」
そうねえ、と桜花は顎に人差し指を当てて考えこんでから、
「その時はおばあさんになるまで、巫女として九条家にお仕えさせていただこうかしら」
「しかし桜花は天宮本家のひとり娘だろう。いいのか?」
仕方ないわ、と桜花は伊織の顔を見上げた。
「だって、わたしは伊織以外の誰のもとへも嫁ぐ気はないもの。おじいさまは嘆かれるかもしれないけど……」
桜花の気持ちは嬉しかったが、同時に冷や汗ものだった。天女の末裔と言われ、由緒ある天宮家の行く末がかかっている。責任重大ではないか。
「だから藤音さまが仰せになっているように、あなたが無事に帰ってきてくれればいいのよ」
これから戦に赴こうという状況下、いとも簡単に言ってのける。
やがて一行は乗船口まで来た。ここから先に進むのは出陣する男たちだけである。
女たちは足を止めた。藤音が一歩前に出て、
「ご武運を、とは申しませぬ。ご無事のご帰還を心よりお待ちしております」
隼人は静かにうなずいた。
「皆と一緒に、きっと戻ってくる」
ぎこちなくではあるが藤音は微笑んだ。涙は見せない。昨夜、約束したように。
あとはただ桜花も瀬奈も、瞳を見かわして別れを告げるだけだ。
「桜花」
「なあに?」
「もしも俺が羅紗から戻ってこられなかったら、どうする?」
「縁起でもないことを言わないで」
「万が一の話だ。桜花はどうする?」
そうねえ、と桜花は顎に人差し指を当てて考えこんでから、
「その時はおばあさんになるまで、巫女として九条家にお仕えさせていただこうかしら」
「しかし桜花は天宮本家のひとり娘だろう。いいのか?」
仕方ないわ、と桜花は伊織の顔を見上げた。
「だって、わたしは伊織以外の誰のもとへも嫁ぐ気はないもの。おじいさまは嘆かれるかもしれないけど……」
桜花の気持ちは嬉しかったが、同時に冷や汗ものだった。天女の末裔と言われ、由緒ある天宮家の行く末がかかっている。責任重大ではないか。
「だから藤音さまが仰せになっているように、あなたが無事に帰ってきてくれればいいのよ」
これから戦に赴こうという状況下、いとも簡単に言ってのける。
やがて一行は乗船口まで来た。ここから先に進むのは出陣する男たちだけである。
女たちは足を止めた。藤音が一歩前に出て、
「ご武運を、とは申しませぬ。ご無事のご帰還を心よりお待ちしております」
隼人は静かにうなずいた。
「皆と一緒に、きっと戻ってくる」
ぎこちなくではあるが藤音は微笑んだ。涙は見せない。昨夜、約束したように。
あとはただ桜花も瀬奈も、瞳を見かわして別れを告げるだけだ。