第140話 憔悴
文字数 793文字
子を授かった喜びとは裏腹に、ひどい吐き気が藤音を苦しめていた。
「思い起こせば、藤音さまのお母上がやはりそうでした。藤音さまの時はどうにかやり過ごせましたが、二度目は重いつわりで弱ってしまわれ、弟君を出産されると亡くなられてしまったのです。きっと藤音さまも体質が似ておられるのでしょう」
遠い昔の話なのに、つい昨日のように思い出されてくる。まだ幼かった藤音は母を慕って泣いたものだ。
月日の経つのは何と早いものだろう。その藤音が母になろうとしている。
桜花はもの思いにふける如月をのぞきこむようにして、
「わたくしの祖父はとても薬草にくわしい者です。よい薬湯を作ってくれると存じますが」
如月は悲しげに首を横に振った。
「お気持ちは感謝しますが、おそらくは無理でしょう。そもそも薬湯が飲めないのですよ。無理に飲んでもすぐに吐いてしまわれて……」
眼がしらに手を当てる如月に、桜花は懸命に言いつのる。
「些少ではありますが、わたくしは家系に伝わる癒す力を継いでおります。どうぞ藤音さまにお会いさせてください。お辛さを和らげることができるかもしれません」
如月は改めて、胸の前で両手を組みあわせる桜花を見た。
どうやらこの巫女には不思議な力があるようだ。
以前にも鬼退治だったか魔封じだったかをやったとかいうし、試してみる価値はあるかもしれない。
どうせ他によき手だてなど、ありはしないのだから。
わかりました、と如月はうなずいた。
「少しでも藤音さまが楽になられるのでしたら……お願いいたします」
二人は館へ入るとまっすぐに藤音の居室へと向かった。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさい、如月」
藤音は寝床から微笑んでみせたが、その姿はすっかり憔悴してしまっている。
「思い起こせば、藤音さまのお母上がやはりそうでした。藤音さまの時はどうにかやり過ごせましたが、二度目は重いつわりで弱ってしまわれ、弟君を出産されると亡くなられてしまったのです。きっと藤音さまも体質が似ておられるのでしょう」
遠い昔の話なのに、つい昨日のように思い出されてくる。まだ幼かった藤音は母を慕って泣いたものだ。
月日の経つのは何と早いものだろう。その藤音が母になろうとしている。
桜花はもの思いにふける如月をのぞきこむようにして、
「わたくしの祖父はとても薬草にくわしい者です。よい薬湯を作ってくれると存じますが」
如月は悲しげに首を横に振った。
「お気持ちは感謝しますが、おそらくは無理でしょう。そもそも薬湯が飲めないのですよ。無理に飲んでもすぐに吐いてしまわれて……」
眼がしらに手を当てる如月に、桜花は懸命に言いつのる。
「些少ではありますが、わたくしは家系に伝わる癒す力を継いでおります。どうぞ藤音さまにお会いさせてください。お辛さを和らげることができるかもしれません」
如月は改めて、胸の前で両手を組みあわせる桜花を見た。
どうやらこの巫女には不思議な力があるようだ。
以前にも鬼退治だったか魔封じだったかをやったとかいうし、試してみる価値はあるかもしれない。
どうせ他によき手だてなど、ありはしないのだから。
わかりました、と如月はうなずいた。
「少しでも藤音さまが楽になられるのでしたら……お願いいたします」
二人は館へ入るとまっすぐに藤音の居室へと向かった。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさい、如月」
藤音は寝床から微笑んでみせたが、その姿はすっかり憔悴してしまっている。