第59話 押し問答
文字数 556文字
出発の仕度はすっかり整っているし、伊織も明日の朝までは、たいしてやることもない。
二人は手を取りあって子供の頃の話をしたり、未だ決まらない桜花の後任の者について考えたりしているうちに夜はふけてゆく。
と、遅ればせながら伊織はある事実に気づいた。
普段は伊織がひとりで使っている簡素な部屋だ。当たり前だが寝具などひとつしかない。
この状況は、どうしたものか。
やはりここは潔く桜花に譲るべきだろう。
考えこむ伊織を桜花が不思議そうにのぞきこむ。
「どうかしたの? 黙りこんで」
「明日は舞いの奉納があるのだろう? 少し寝ておいた方がいいんじゃないかと思って」
「伊織だって明日は出陣でしょう。身体を休めておいた方がよくなくて?」
俺は大丈夫だ、と言いながら、とりあえず部屋の隅に置いてある寝具を畳に広げていく。
「これは桜花が使うといい」
そこでようやく桜花は伊織が考えこんでいた意味を理解し、赤くなった。この部屋には寝具がひとつきりなのだ。
「わたしは勝手に押しかけてきたんですもの。伊織が使って」
「いや、桜花が」
しばらく押し問答が続いたが、埒 があかず、二人は困惑気味に顔を見あわせた。
二人は手を取りあって子供の頃の話をしたり、未だ決まらない桜花の後任の者について考えたりしているうちに夜はふけてゆく。
と、遅ればせながら伊織はある事実に気づいた。
普段は伊織がひとりで使っている簡素な部屋だ。当たり前だが寝具などひとつしかない。
この状況は、どうしたものか。
やはりここは潔く桜花に譲るべきだろう。
考えこむ伊織を桜花が不思議そうにのぞきこむ。
「どうかしたの? 黙りこんで」
「明日は舞いの奉納があるのだろう? 少し寝ておいた方がいいんじゃないかと思って」
「伊織だって明日は出陣でしょう。身体を休めておいた方がよくなくて?」
俺は大丈夫だ、と言いながら、とりあえず部屋の隅に置いてある寝具を畳に広げていく。
「これは桜花が使うといい」
そこでようやく桜花は伊織が考えこんでいた意味を理解し、赤くなった。この部屋には寝具がひとつきりなのだ。
「わたしは勝手に押しかけてきたんですもの。伊織が使って」
「いや、桜花が」
しばらく押し問答が続いたが、