第20話 秘密の場所
文字数 611文字
打掛もはおらず、身軽な小袖姿で藤音は隼人に手を引かれ、城の中庭を歩いていった。二人きりの時は着飾る必要もない。
庭の片隅にその建物はあった。木立の中、簡素な木造りの、掘っ建て小屋と呼んでもいいような代物だ。
「こちらで、ございますか」
なかば呆気にとられる藤音をよそに、隼人は簡単な閂 を外す。
「さあ、どうぞ」
誘 われ、足を踏み入れた藤音は驚いて内部を見回した。
壁の棚にはびっしりと本が並べられ、机の上には怪しげな液体の入った瓶やら、植物やら、鉱物などが置かれている。
広げられたままの本は異国の言葉で綴られ、まったく読めない。
「少し散らかっているけど、気にしないで座って」
机に面した椅子を引かれ、言われるまま腰を降ろす。が、この散らかり具合はどう見ても少し、などという状態ではない。
「殿はここでいったい何をされているのですか?」
問われて、んー、と隼人は頭の後ろに手をやった。
「いろいろだけど、異国の言葉を学んだり、本を読んだり、錬金術をやってみたり……」
「錬金術?」
藤音は首をかしげて聞き返した。初めて耳にする言葉だ。
「金を作りだそうという南蛮の学問だよ。もっとも成功したことは一度もないけどね」
「はあ……」
「最初は自分の部屋でやっていたのだけど、失敗すると破裂したりするので、周囲の者から苦情がきて、ここに専用の場所を設けたんだ」
眼の前の赤い液体の入っている瓶を、藤音はこわごわと見つめた。何やら恐ろしい話だ。
庭の片隅にその建物はあった。木立の中、簡素な木造りの、掘っ建て小屋と呼んでもいいような代物だ。
「こちらで、ございますか」
なかば呆気にとられる藤音をよそに、隼人は簡単な
「さあ、どうぞ」
壁の棚にはびっしりと本が並べられ、机の上には怪しげな液体の入った瓶やら、植物やら、鉱物などが置かれている。
広げられたままの本は異国の言葉で綴られ、まったく読めない。
「少し散らかっているけど、気にしないで座って」
机に面した椅子を引かれ、言われるまま腰を降ろす。が、この散らかり具合はどう見ても少し、などという状態ではない。
「殿はここでいったい何をされているのですか?」
問われて、んー、と隼人は頭の後ろに手をやった。
「いろいろだけど、異国の言葉を学んだり、本を読んだり、錬金術をやってみたり……」
「錬金術?」
藤音は首をかしげて聞き返した。初めて耳にする言葉だ。
「金を作りだそうという南蛮の学問だよ。もっとも成功したことは一度もないけどね」
「はあ……」
「最初は自分の部屋でやっていたのだけど、失敗すると破裂したりするので、周囲の者から苦情がきて、ここに専用の場所を設けたんだ」
眼の前の赤い液体の入っている瓶を、藤音はこわごわと見つめた。何やら恐ろしい話だ。