第142話 穏やかな姿
文字数 674文字
本当は隼人がそばにいて励ましてくれることが、一番の薬になるのだろうが、今はかなわない。
「どうぞ眼をつむってお楽になさってくださいませ」
少しでも藤音の辛さが和らぐように、桜花は自分も眼を閉じて意識を集中させた。
二人を柔らかな金色の光が包み、重ねた手から桜花の持つ清らかな「気」が流れこむ。
藤音はほうっと息をついた。何と暖かくて心地よいのだろう。
「……あの時は、ごめんなさいね」
ぽつりと告げる藤音に、手を重ねたまま、桜花は眼を開けて小首をかしげた。
「伊織どのが報告に城に帰ってきた日よ。わたくしはあなたたちに扇を投げつけてしまったわ。伊織どのはあんなにひどい怪我を負っていたのに」
もたらされた知らせはあまりに残酷で、どうしてよいか混乱するばかりで。
どうぞお気になさらないでください、と桜花は微笑んだ。
「藤音さまがどれほど苦しまれたか、お心はわかる気がいたします。きっと伊織も同じだと思います」
「あなたは優しいのね……」
閉じたままの瞼から涙がひとすじ、頬を伝わっていく。
ほどなく藤音は静かな寝息をたて始めた。
藤音が眠りについたのを確かめると桜花はそっと手を離し、如月の方を振り返った。
「これで少しは落ち着かれたかと存じます」
如月は眼を見張って何度もうなずいた。
話には聞いていても、桜花の力を実際に見たのは初めてだ。
正直、これまでは半信半疑だったのだが、藤音のこんなに穏やかな姿は久しぶりに眼にする。
「どうぞ眼をつむってお楽になさってくださいませ」
少しでも藤音の辛さが和らぐように、桜花は自分も眼を閉じて意識を集中させた。
二人を柔らかな金色の光が包み、重ねた手から桜花の持つ清らかな「気」が流れこむ。
藤音はほうっと息をついた。何と暖かくて心地よいのだろう。
「……あの時は、ごめんなさいね」
ぽつりと告げる藤音に、手を重ねたまま、桜花は眼を開けて小首をかしげた。
「伊織どのが報告に城に帰ってきた日よ。わたくしはあなたたちに扇を投げつけてしまったわ。伊織どのはあんなにひどい怪我を負っていたのに」
もたらされた知らせはあまりに残酷で、どうしてよいか混乱するばかりで。
どうぞお気になさらないでください、と桜花は微笑んだ。
「藤音さまがどれほど苦しまれたか、お心はわかる気がいたします。きっと伊織も同じだと思います」
「あなたは優しいのね……」
閉じたままの瞼から涙がひとすじ、頬を伝わっていく。
ほどなく藤音は静かな寝息をたて始めた。
藤音が眠りについたのを確かめると桜花はそっと手を離し、如月の方を振り返った。
「これで少しは落ち着かれたかと存じます」
如月は眼を見張って何度もうなずいた。
話には聞いていても、桜花の力を実際に見たのは初めてだ。
正直、これまでは半信半疑だったのだが、藤音のこんなに穏やかな姿は久しぶりに眼にする。