第11話 続く試練

文字数 478文字

 かくして試練は続く。次は九条家の当主である隼人に目通りし、桜花が巫女の座を辞する許可を得なければならない。
 二人はそろって当主夫妻の前に座り、頭を下げた。祖父に報告した時より、はるかに緊張の度合いは高い。
「二人とも今日は何だか、いやにかしこまっていませんか」
 隼人が不思議そうに問いかけ、藤音は横でにこやかに成り行きを見守っている。
 伊織の隣で先に口を開いたのは桜花だった。
「先だってはお暇をいただき、ありがとうございました」
「たまには休みも必要でしょう。遠海の祖父どのにはお会いできましたか?」
「はい。報告もでき、祖父も喜んでおりました」 
「報告というと、何か大切なお話があったのですか?」
「はい……大切といえば大切なのですが……」
 隼人は首をかしげた。どうも桜花のもの言いは歯切れが悪い。隣に座る伊織もとまどった様子で黙ったままだ。
 これでは話が先に進まない。桜花はすっと息を吸いこむと、思い切って本題に入った。
「実は、今までご厚情をたまわってまいりましたが、この度、巫女の座を辞したく、お願いにまいりました」
「ええっ⁉」
 隼人は驚愕した声を上げた。




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登場人物紹介

九条隼人(くじょうはやと)


若き聡明な草薙の領主。大切なものを守るため、心ならずも異国との戦に身を投じる。

「鬼哭く里の純恋歌」の人物イラストとイメージが少し異なっています。優しいだけではない、乱世に生きる武人としての姿を見てあげてください。

藤音(ふじね)


隼人の正室。人質同然の政略結婚であったが、彼の誠実な優しさにふれ、心から愛しあうようになる。

夫の留守を守り、自分にできる最善を尽くす。

天宮桜花(あまみやおうか)


九条家に仕える巫女。天女の末裔と言われ、破魔と癒しの力を持つ優しい少女。舞の名手。

幼馴染の伊織と祝言を挙げる予定だが、後任探しが難航し、巫女の座を降りられずにいる。

桐生伊織(きりゅういおり)


桜花の婚約者。婚礼の準備がなかなか進まないのが悩みの種。

武芸に秀で、隼人の護衛として戦に赴く。

柊蘇芳(ひいらぎすおう)


隼人とはいとこだが、彼を疎んじている。美貌の武将。

帝の甥で強大な権力を持ち、その野心を異国への出兵に向ける。

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の長。戦の渦中で隼人の運命に大きくかかわっていく。

白瑛(はくえい)


王都での残党狩りの時、隼人がわざと見逃した少年。実はその素性は……。

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