第1章 平穏
文字数 520文字
ここはいったいどこなのか、まるでわからぬまま、周囲を見回すと遠く前方に光が見える。
深い闇の中でその場所だけがくっきりと鮮やかな赤い色を放ち、引き寄せられるように足を向ける。
だが、近づいてみると、すぐさま異変に気づいた。
赤い光と思ったそれは家々や畑を焼き払う紅蓮の炎だったのだ。
武具のぶつかりあう音。飛び交う怒号。馬のいななき。逃げまどう人々の悲鳴。
藤音は慄然とした。ここは、
なぜ、自分はこのようなところに……!?
混乱する藤音の前に突然、黒い影が立ちはだかり、刃を振り下ろそうとする。
逃げようとしても金縛りにあったように体が動かず、かすれた悲鳴を上げた
「藤音」
どこかから自分の名を呼ぶ声が聞こえ、肩が軽く揺すられる。
そこで、眼が覚めた。
まばたきして瞳をこらすと、隣で
首の後ろで簡単に髪を結んだ、聡明そうな面ざし。年はまだ十七だが、亡き父の跡を継いだ
見慣れた城の一室。額に浮かぶ汗を手でぬぐいながら、藤音はほうっと息をついた。
「どうした? うなされていたようだけど」
夢をみました、と藤音はぽつりと答えた。