第87話 総大将の厳命
文字数 622文字
酒の入った敷島は上機嫌になっており、今ならいろいろと現地の様子が聞けそうだ。
「あの、司令官どの」
「何かな」
隼人はまず、宴席に来てからずっと気になっていた疑問を口にした。
「ここにいる娘たちはどうしたのですか。いったいどこから……」
「何も生け捕りにして無理矢理従わせているわけではござらんぞ。皆、近郊の村の娘で、女手が欲しいというわれらの呼びかけに応じてくれた者。ちゃんと給金も支払ってござる」
敷島は堂々と胸を張って答えた。
決して強制して相手をさせているわけではない。たとえその呼びかけが村人たちに刀や槍を突きつけた力づくの方法であったとしても。
「そもそもわれらは総大将から厳命を受けてござる」
「厳命?」
聞き返す隼人にうなずき、
「おっと、まだ伝えていませんでしたな。この度の羅紗攻めの全部隊に、柊蘇芳どのからきつく命が下されております。それは……」
敷島の話は長くて回りくどかったが、隼人を驚かせ、同時に安堵させたのは、蘇芳が総大将を務める軍の規律正しさだった。
戦ともなれば住民への略奪や狼藉は当然のように行われる。乱世の常であり、隼人が最も嫌う行為だ。
だが、戦えぬ民には手を出すな──この戦において柊蘇芳は全軍に固く命じた。
命令を破り、略奪や無意味な殺戮に及んだ者は、身分の如何を問わず、厳罰に処された。
「あの、司令官どの」
「何かな」
隼人はまず、宴席に来てからずっと気になっていた疑問を口にした。
「ここにいる娘たちはどうしたのですか。いったいどこから……」
「何も生け捕りにして無理矢理従わせているわけではござらんぞ。皆、近郊の村の娘で、女手が欲しいというわれらの呼びかけに応じてくれた者。ちゃんと給金も支払ってござる」
敷島は堂々と胸を張って答えた。
決して強制して相手をさせているわけではない。たとえその呼びかけが村人たちに刀や槍を突きつけた力づくの方法であったとしても。
「そもそもわれらは総大将から厳命を受けてござる」
「厳命?」
聞き返す隼人にうなずき、
「おっと、まだ伝えていませんでしたな。この度の羅紗攻めの全部隊に、柊蘇芳どのからきつく命が下されております。それは……」
敷島の話は長くて回りくどかったが、隼人を驚かせ、同時に安堵させたのは、蘇芳が総大将を務める軍の規律正しさだった。
戦ともなれば住民への略奪や狼藉は当然のように行われる。乱世の常であり、隼人が最も嫌う行為だ。
だが、戦えぬ民には手を出すな──この戦において柊蘇芳は全軍に固く命じた。
命令を破り、略奪や無意味な殺戮に及んだ者は、身分の如何を問わず、厳罰に処された。