第156話 争いの火種
文字数 701文字
「部屋に置いてあります。この船の中では必要ありませんし、倭国の人間であるわたしが刀など下げていては不安に思う者もいるでしょう」
「何とまあ、殊勝な気配りだ。倭国の者は刀は武士の魂、とか言うのではなかったか?」
「わたしには当てはまりません。武芸は苦手だし」
「確かに。一応は武将のくせに、そなたには全然刀が似合わないな」
よく言われます、と肩をすくめてみせる。
「争い事は嫌いなのです。特に戦 は」
「わたしとて決して好きなわけではないぞ」
阿梨の語気が強くなる。
「だが、降りかかってくる火の粉は払わねばならぬ。そなたとて同じであろう?」
厳しい表情をする阿梨に、隼人は無言で眼を伏せた。
どんなに望まずとも、時には刃を向けねばならない場合がある。今回の羅紗攻めのように。
権力に引きずられ、大切なものを守るために、遠い他国で憎くもない相手と刃を交えねばならなかった。その痛みは生涯消えないだろう。
隼人の胸中を推し量るように阿梨はつぶやいた。
「国境、民族、利害……争いの火種はどこにでもある。戦というものは人の世がある限り、なくならぬものかもしれないな」
「ひどく残念ですが……」
嘆いたところで冷酷な世界は変わりはしない。それぞれに人を率いる立場にある二人は、現実というものをよくわかっていた。
せめてできるのは、ささやかな希望を捨てずに持ち続けることくらいだ。
そして争いの火種、という言葉が隼人にある事実を思い起こさせた。隼人は顔を上げ、真剣な表情を阿梨に向けた。
「何とまあ、殊勝な気配りだ。倭国の者は刀は武士の魂、とか言うのではなかったか?」
「わたしには当てはまりません。武芸は苦手だし」
「確かに。一応は武将のくせに、そなたには全然刀が似合わないな」
よく言われます、と肩をすくめてみせる。
「争い事は嫌いなのです。特に
「わたしとて決して好きなわけではないぞ」
阿梨の語気が強くなる。
「だが、降りかかってくる火の粉は払わねばならぬ。そなたとて同じであろう?」
厳しい表情をする阿梨に、隼人は無言で眼を伏せた。
どんなに望まずとも、時には刃を向けねばならない場合がある。今回の羅紗攻めのように。
権力に引きずられ、大切なものを守るために、遠い他国で憎くもない相手と刃を交えねばならなかった。その痛みは生涯消えないだろう。
隼人の胸中を推し量るように阿梨はつぶやいた。
「国境、民族、利害……争いの火種はどこにでもある。戦というものは人の世がある限り、なくならぬものかもしれないな」
「ひどく残念ですが……」
嘆いたところで冷酷な世界は変わりはしない。それぞれに人を率いる立場にある二人は、現実というものをよくわかっていた。
せめてできるのは、ささやかな希望を捨てずに持ち続けることくらいだ。
そして争いの火種、という言葉が隼人にある事実を思い起こさせた。隼人は顔を上げ、真剣な表情を阿梨に向けた。