第10話 もうじき家族に
文字数 448文字
ただ、それぞれの家風にもよるのだろうが、父は忙しかったし、養母は作法に厳しかった。
だから昨夜や今朝の天宮家のように家族でにぎやかに食事をしたという記憶が伊織にはない。
継母の霧江は立派だったと思う。
もともと霧江の侍女だった母が死ぬと、庶出の自分を屋敷に引き取り、育ててくれた。
武芸も学問も実子の兄と分け隔てなく習わせてくれたし、理不尽な仕打ちなど一度も受けたことはない。
たったひとつ違っていたのは、兄に対するように笑いかけて抱きしめてはくれなかったことだ。
子供の頃は寂しかったが今ならわかる。自分の立場で、血のつながらない霧江に愛情まで望むのは無理というものだ。
つと桜花は足を止め、伊織もつられて立ち止まる。
桜花は伊織を見上げ、優しく頬にふれた。
「もうじきわたしたちは家族になるわ。毎日話して、笑って、一緒に食事ができるわ」
桜花の手に自分の手を重ね、伊織はうなずいた。
「そうだな」
さっきまで涙ぐんでいた桜花はにっこりと笑い、二人はどちらからともなく手をつないで再び歩き出した。
だから昨夜や今朝の天宮家のように家族でにぎやかに食事をしたという記憶が伊織にはない。
継母の霧江は立派だったと思う。
もともと霧江の侍女だった母が死ぬと、庶出の自分を屋敷に引き取り、育ててくれた。
武芸も学問も実子の兄と分け隔てなく習わせてくれたし、理不尽な仕打ちなど一度も受けたことはない。
たったひとつ違っていたのは、兄に対するように笑いかけて抱きしめてはくれなかったことだ。
子供の頃は寂しかったが今ならわかる。自分の立場で、血のつながらない霧江に愛情まで望むのは無理というものだ。
つと桜花は足を止め、伊織もつられて立ち止まる。
桜花は伊織を見上げ、優しく頬にふれた。
「もうじきわたしたちは家族になるわ。毎日話して、笑って、一緒に食事ができるわ」
桜花の手に自分の手を重ね、伊織はうなずいた。
「そうだな」
さっきまで涙ぐんでいた桜花はにっこりと笑い、二人はどちらからともなく手をつないで再び歩き出した。