第48話 曽我水軍

文字数 654文字

「わたしもいろいろ考えたのだけど、真砂(まさご)曽我(そが)水軍を頼ろうと思う」
「真砂の、曽我水軍とな……」
 結城は顎に手をやり、考え深げにつぶやいた。
 真砂は海に沿った隣国で、草薙とは代々友好関係にある。
「曽我水軍を頼るとは、いかがされるおつもりですか」
「まず曽我家当主に船を貸してくれるよう文を書く。返事が来たら、わたしが出向いて直接お頼みするつもりだ」
「船を借りるのでございますか。しかしわれらは船の扱いなど……」
 違う違う、と隼人は顔の前で手を振った。
「船だけ借りてもわたしたちには操る技術がない。わたしが考えているのは、草薙の兵を分散させ、少人数ずつ曽我水軍の船に乗せて羅紗の港まで運んでもらえないか、ということだ。もちろん船賃はきちんと支払って」
「なるほど」
「もともとわれらは陸の軍だ。羅紗の港についたら船を降り、後は陸路を行けばよい。帰りは再び曽我の船に乗せてもらえるよう取り計らっておく」
 曽我水軍がどれだけ草薙の兵を運んでくれるかはわからないが、交渉してみる価値は充分ありそうだ。
 まずは曽我家当主に文をしたためなくては。
 当主の曽我(そが)兼光(かねみつ)は父が生きていた頃、何度か会っている。義に厚く思慮深い、信頼に足る武将だ。 
 そうと決まれば今日の軍議は終わりだ。
 船賃はいくらかかるやら……という結城のつぶやきは聞こえないふりをして、隼人は立ち上がった。




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登場人物紹介

九条隼人(くじょうはやと)


若き聡明な草薙の領主。大切なものを守るため、心ならずも異国との戦に身を投じる。

「鬼哭く里の純恋歌」の人物イラストとイメージが少し異なっています。優しいだけではない、乱世に生きる武人としての姿を見てあげてください。

藤音(ふじね)


隼人の正室。人質同然の政略結婚であったが、彼の誠実な優しさにふれ、心から愛しあうようになる。

夫の留守を守り、自分にできる最善を尽くす。

天宮桜花(あまみやおうか)


九条家に仕える巫女。天女の末裔と言われ、破魔と癒しの力を持つ優しい少女。舞の名手。

幼馴染の伊織と祝言を挙げる予定だが、後任探しが難航し、巫女の座を降りられずにいる。

桐生伊織(きりゅういおり)


桜花の婚約者。婚礼の準備がなかなか進まないのが悩みの種。

武芸に秀で、隼人の護衛として戦に赴く。

柊蘇芳(ひいらぎすおう)


隼人とはいとこだが、彼を疎んじている。美貌の武将。

帝の甥で強大な権力を持ち、その野心を異国への出兵に向ける。

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の長。戦の渦中で隼人の運命に大きくかかわっていく。

白瑛(はくえい)


王都での残党狩りの時、隼人がわざと見逃した少年。実はその素性は……。

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