第95話 帝の御子
文字数 700文字
その日も九条軍はいつものように埋葬のための穴を掘っていた。
もちろん隼人も例外ではない。
副将たちはこぞって反対したが、元々言い出したのは自分なのだから、部下たちだけに任せてそ知らぬ顔はできない。
今日の弔いをすませ、街道沿いの湧水で手と顔を洗う。慣れない穴掘りで凝った肩をぐるんと回し、無人となった店の軒先に腰を降ろした矢先。
「殿!」
ひとりの若い兵が弾んだ声を上げ、駆け寄ってきた。隼人の前まで来ると立ち止まり、眼を輝かせて訊いてくる。
「殿が帝の御子であられるという噂は本当でございますか⁉」
「は?」
突拍子もない質問にきょとんとしていると、後から和臣があわてて追いかけて来る。
「待て待て、違うと言うのに!」
和臣は胸に手を当てて、申し訳ございませぬ、と頭を下げる。
どういうわけなのかと隼人がたずねると、実は、と和臣は語り出した。
ことの起こりは兵たちの素朴な疑問である。
──なぜ、わが殿は総大将に疎まれておられるのですか? そもそも柊蘇芳さまと殿はお知りあいなのですか?
帝の甥と言えば天上人だ。事情を知らない兵たちが不思議に思うのも無理はない。
「優華 さまのご出自については城仕えの者なら承知しておりますが、いきさつを知らぬ地方出身の者も多く、きちんと説明したのですが、いつの間にか話に尾ひれがついてしまい……」
「なるほど。しかしまた、ずいぶんと大きな尾ひれがついたものだね」
当の本人は感心した口調で、目の前に立つ朴訥 な兵に笑いかける。
もちろん隼人も例外ではない。
副将たちはこぞって反対したが、元々言い出したのは自分なのだから、部下たちだけに任せてそ知らぬ顔はできない。
今日の弔いをすませ、街道沿いの湧水で手と顔を洗う。慣れない穴掘りで凝った肩をぐるんと回し、無人となった店の軒先に腰を降ろした矢先。
「殿!」
ひとりの若い兵が弾んだ声を上げ、駆け寄ってきた。隼人の前まで来ると立ち止まり、眼を輝かせて訊いてくる。
「殿が帝の御子であられるという噂は本当でございますか⁉」
「は?」
突拍子もない質問にきょとんとしていると、後から和臣があわてて追いかけて来る。
「待て待て、違うと言うのに!」
和臣は胸に手を当てて、申し訳ございませぬ、と頭を下げる。
どういうわけなのかと隼人がたずねると、実は、と和臣は語り出した。
ことの起こりは兵たちの素朴な疑問である。
──なぜ、わが殿は総大将に疎まれておられるのですか? そもそも柊蘇芳さまと殿はお知りあいなのですか?
帝の甥と言えば天上人だ。事情を知らない兵たちが不思議に思うのも無理はない。
「
「なるほど。しかしまた、ずいぶんと大きな尾ひれがついたものだね」
当の本人は感心した口調で、目の前に立つ