第139話 気がかり
文字数 653文字
城下から遠海に戻る駕籠の中で、如月は憂いの色を顔に浮かべていた。
家臣たちに藤音の懐妊を宣言してやったのは、胸のすくような思いだったが、実は大きな気がかりがあった。
藤音の体調がひどく悪いのである。
遠海に着いて館の前で駕籠を降り、中に入ろうとした時。
「如月さま!」
自分の名を呼んで小走りに近づいてくる姿があった。桜花だ。
いつもの巫女装束ではなく、質素な藍色の小袖姿だと、だいぶ印象が変わる。どこにでもいそうな平凡な娘にしか見えない。
「お城に行かれたとお聞きしましたが……」
「ええ。殿のご不在で肝の小さい家臣たちが後継者など探しているので、藤音さまのご懐妊を伝えてきたのですよ」
桜花は内心でくすっと笑った。相変わらず如月は歯に衣着せぬもの言いをする。
「わたくしに何か用でも?」
如月としては藤音が心配で、呑気に桜花と立ち話などせずに、一刻も早く館へと戻りたいのだが。
「えっと、あの」
桜花はどう切り出そうか少し考えこんだ後、思い切って唇を動かした。
「ご懐妊はおめでたきことなれど、藤音さまのお加減がよくないとうかがったのですが……」
人づてに聞き、祖父の手伝いの合間をぬって駆けつけてきたのだ。
おそるおそる話す桜花の前で、如月は大きなため息をついた。
「つわりが、ひどいのですよ」
城ではおくびにも出さなかったが、なぜかしらこの少女には本音を打ち明けたくなってしまう。
家臣たちに藤音の懐妊を宣言してやったのは、胸のすくような思いだったが、実は大きな気がかりがあった。
藤音の体調がひどく悪いのである。
遠海に着いて館の前で駕籠を降り、中に入ろうとした時。
「如月さま!」
自分の名を呼んで小走りに近づいてくる姿があった。桜花だ。
いつもの巫女装束ではなく、質素な藍色の小袖姿だと、だいぶ印象が変わる。どこにでもいそうな平凡な娘にしか見えない。
「お城に行かれたとお聞きしましたが……」
「ええ。殿のご不在で肝の小さい家臣たちが後継者など探しているので、藤音さまのご懐妊を伝えてきたのですよ」
桜花は内心でくすっと笑った。相変わらず如月は歯に衣着せぬもの言いをする。
「わたくしに何か用でも?」
如月としては藤音が心配で、呑気に桜花と立ち話などせずに、一刻も早く館へと戻りたいのだが。
「えっと、あの」
桜花はどう切り出そうか少し考えこんだ後、思い切って唇を動かした。
「ご懐妊はおめでたきことなれど、藤音さまのお加減がよくないとうかがったのですが……」
人づてに聞き、祖父の手伝いの合間をぬって駆けつけてきたのだ。
おそるおそる話す桜花の前で、如月は大きなため息をついた。
「つわりが、ひどいのですよ」
城ではおくびにも出さなかったが、なぜかしらこの少女には本音を打ち明けたくなってしまう。