第133話 海龍一族
文字数 782文字
隼人の寝ている部屋の前で阿梨は足を止めた。案の定、にぎやかな声が聞こえていた。片手で軽く戸を叩き、中に声をかける。
「邪魔するぞ」
「姉さま!」
扉を開けると同時に白瑛が駆け寄ってくる。
またここにいたのか、と弟に苦笑すると、阿梨は寝台に横たわる隼人に目線を当てた。
「どうだ、傷の具合は?」
「おかげでだいぶ回復してきました」
「それは結構」
阿梨は寝台の脇の椅子に腰を降ろし、すらりとした足を組んで吐息した。
「心配性の連中がそなたを間諜ではないかと疑って、うるさくて困る」
「わたしは決してそのような者では……」
わかっている、と手をひらひら振ってみせる。
「だから言ってやった。戦場で正面からばっさり切られる、間抜けな間諜がいるものかと」
かばってもらったのはありがたいが、そんな言われようでは、ぐうの音も出ない。
「あの、阿梨どの」
阿梨はうーん、と口の中で唸りながら隼人を見た。
「その呼ばれ方もしっくりこないな。ただの阿梨でいい」
「しかし、それでは王女に対して非礼かと……」
「王女などと呼ばれるのは性にあわんと前にも言っただろう。わたしは海龍一族の阿梨だ。それ以上でも、それ以下でもない」
毅然とした口調に押し切られる形で、隼人は言葉を続けた。
「では阿梨、ひとつ聞いてもよいでしょうか」
「何なりと」
「ずっと不思議に思っていたのです。羅紗水軍を擁 する海龍一族は、海に生きる誇り高い民。決して王家の臣下ではないと聞いていました。ですが、長は王家の姫であるあなただ」
ああ、その話か、と阿梨はうなずいた。
「確かにわれらは独立した一族。しかし王家とは代々、互いを尊重し、親交を結んできた。一族から王妃となった娘も少なくない」
「邪魔するぞ」
「姉さま!」
扉を開けると同時に白瑛が駆け寄ってくる。
またここにいたのか、と弟に苦笑すると、阿梨は寝台に横たわる隼人に目線を当てた。
「どうだ、傷の具合は?」
「おかげでだいぶ回復してきました」
「それは結構」
阿梨は寝台の脇の椅子に腰を降ろし、すらりとした足を組んで吐息した。
「心配性の連中がそなたを間諜ではないかと疑って、うるさくて困る」
「わたしは決してそのような者では……」
わかっている、と手をひらひら振ってみせる。
「だから言ってやった。戦場で正面からばっさり切られる、間抜けな間諜がいるものかと」
かばってもらったのはありがたいが、そんな言われようでは、ぐうの音も出ない。
「あの、阿梨どの」
阿梨はうーん、と口の中で唸りながら隼人を見た。
「その呼ばれ方もしっくりこないな。ただの阿梨でいい」
「しかし、それでは王女に対して非礼かと……」
「王女などと呼ばれるのは性にあわんと前にも言っただろう。わたしは海龍一族の阿梨だ。それ以上でも、それ以下でもない」
毅然とした口調に押し切られる形で、隼人は言葉を続けた。
「では阿梨、ひとつ聞いてもよいでしょうか」
「何なりと」
「ずっと不思議に思っていたのです。羅紗水軍を
ああ、その話か、と阿梨はうなずいた。
「確かにわれらは独立した一族。しかし王家とは代々、互いを尊重し、親交を結んできた。一族から王妃となった娘も少なくない」