第80話 婚約しようとした矢先
文字数 580文字
「いかがですかな。わたしは瀬奈どのの意に沿いましたか」
この縁談の決定権は家でも自分でもなく、瀬奈にある。何度目かに会った時に和臣がたずねると、瀬奈は、はい、とにっこりした。
「和臣さまとお会いできてよかったと思います」
瞳を見かわし、和臣は微笑した。
まんまと母のお膳立てに乗せられたような気もするが、この娘となら共に暮らすのも悪くない。
突然に羅紗行きが決まったのは、正式に婚約しようとした矢先だった。
婚約を延ばし、見送りもいらぬと断ったのだが、瀬奈が出港直前に駆けつけて来たのは伊織も知っての通りだ。
「わたしのことより、そちらはどうだ? 桜花どのは見事に舞いを奉納されていたが、おかげで祝言が延びてしまったのだろう」
「いえ、どちらにしても後任の者がまだ決まっておりませんので……。桜花は俺が帰ってくるまでには、必ず探しておくと言っていましたが」
「では、この戦が終わったら、わたしの方が先に祝言を挙げることになるかもしれないな」
「順序からすれば、兄上の方が先でよろしいかもしれません」
「祝言、か」
思惑ありげに和臣はつぶやいた。
「祝言を挙げるとなれば、二人にも出席してもらいたいが、桜花どのは本当にわたしを許してくれているだろうか……」
この縁談の決定権は家でも自分でもなく、瀬奈にある。何度目かに会った時に和臣がたずねると、瀬奈は、はい、とにっこりした。
「和臣さまとお会いできてよかったと思います」
瞳を見かわし、和臣は微笑した。
まんまと母のお膳立てに乗せられたような気もするが、この娘となら共に暮らすのも悪くない。
突然に羅紗行きが決まったのは、正式に婚約しようとした矢先だった。
婚約を延ばし、見送りもいらぬと断ったのだが、瀬奈が出港直前に駆けつけて来たのは伊織も知っての通りだ。
「わたしのことより、そちらはどうだ? 桜花どのは見事に舞いを奉納されていたが、おかげで祝言が延びてしまったのだろう」
「いえ、どちらにしても後任の者がまだ決まっておりませんので……。桜花は俺が帰ってくるまでには、必ず探しておくと言っていましたが」
「では、この戦が終わったら、わたしの方が先に祝言を挙げることになるかもしれないな」
「順序からすれば、兄上の方が先でよろしいかもしれません」
「祝言、か」
思惑ありげに和臣はつぶやいた。
「祝言を挙げるとなれば、二人にも出席してもらいたいが、桜花どのは本当にわたしを許してくれているだろうか……」