第22話 いつか広い世界を

エピソード文字数 517文字

「いつかは海を越えて広い世界を見て回りたいと願っている。その時は藤音も一緒に──」
 眼を輝かせる隼人に、藤音はこくりとうなずいた。
 本当に隼人と世界を見て回れたら、どんなに楽しいだろう。向こう岸の見えない大河や、砂ばかりの大地や、ひっそりとたたずむ遺跡……。
 遠慮がちに戸を叩く音が聞こえたのは、二人が飽きずに地球儀を眺めていた時だった。
「殿、こちらにいらっしゃいますか?」
 問いかけてきた声は伊織の異母兄、和臣(かずおみ)のものだ。弟と同様、隼人の身辺警護が主な任務である。
「ああ。どうぞ」
 隼人が返事をすると、失礼いたします、と断ってから、丁寧に戸を開けて入ってくる。
 伊織よりひとつ年上で、いつもきちんとした身なりをして、整った知的な顔立ちをしている。
「これは、奥方さまもご一緒でしたか。おくつろぎのところを申し訳ございません」
「かまわないけど、何か急用でも?」
「実は、突然ではございますが、(ひいらぎ)蘇芳(すおう)どのがお越しになっております」
「──蘇芳が?」
 一瞬、隼人の瞳が驚いたように見開かれる。




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登場人物紹介

九条隼人(くじょうはやと)


若き聡明な草薙の領主。大切なものを守るため、心ならずも異国との戦に身を投じる。

「鬼哭く里の純恋歌」の人物イラストとイメージが少し異なっています。優しいだけではない、乱世に生きる武人としての姿を見てあげてください。

藤音(ふじね)


隼人の正室。人質同然の政略結婚であったが、彼の誠実な優しさにふれ、心から愛しあうようになる。

夫の留守を守り、自分にできる最善を尽くす。

天宮桜花(あまみやおうか)


九条家に仕える巫女。天女の末裔と言われ、破魔と癒しの力を持つ優しい少女。舞の名手。

幼馴染の伊織と祝言を挙げる予定だが、後任探しが難航し、巫女の座を降りられずにいる。

桐生伊織(きりゅういおり)


桜花の婚約者。婚礼の準備がなかなか進まないのが悩みの種。

武芸に秀で、隼人の護衛として戦に赴く。

柊蘇芳(ひいらぎすおう)


隼人とはいとこだが、彼を疎んじている。美貌の武将。

帝の甥で強大な権力を持ち、その野心を異国への出兵に向ける。

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の長。戦の渦中で隼人の運命に大きくかかわっていく。

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