第121話 自責の念
文字数 575文字
伊織の視線を感じたのか、やがて桜花は眼を覚まし、微笑んだ。
「お帰りなさい、伊織」
「また無茶をしたな、桜花」
「だって……」
伊織は手を伸ばして桜花の柔らかな頬にそっとふれた。みるみるうちに桜花の瞳がうるんで、頬にふれた伊織の手を両手で包みこむ。
「あのね、九条家にお仕えする後任が決まったわ。柏木 さまという立派な神官さまよ。亡くなった父さまに少し似ているわ」
それはよかった、と伊織は小さく笑む。
これでやっと祝言が挙げられる。しかし今の二人は自分たちのことより、隼人の身が気がかりでならない。
「隼人さまは……」
「報告した通りだ。最悪の事態を覚悟したが、いくら探してもご遺体さえ見つからなかった。俺は羅紗まで行きながら殿を守れなかった……」
うつむき、肩を震わせる伊織を、桜花はそっと抱きしめる。
「お願い、今は何も考えないで」
戦場に隼人を置き去りにしてしまったという自責の念は、伊織から生きる気力を奪ってしまう。
いくら桜花が力を尽くそうと、生きようとする意志のない者を救うことはかなわない。
痛みは楽になったが、体力はまだ回復していなかった。抗いがたい眠気に襲われ、伊織は瞼を閉じて再び深い眠りの底に落ちていった。
「お帰りなさい、伊織」
「また無茶をしたな、桜花」
「だって……」
伊織は手を伸ばして桜花の柔らかな頬にそっとふれた。みるみるうちに桜花の瞳がうるんで、頬にふれた伊織の手を両手で包みこむ。
「あのね、九条家にお仕えする後任が決まったわ。
それはよかった、と伊織は小さく笑む。
これでやっと祝言が挙げられる。しかし今の二人は自分たちのことより、隼人の身が気がかりでならない。
「隼人さまは……」
「報告した通りだ。最悪の事態を覚悟したが、いくら探してもご遺体さえ見つからなかった。俺は羅紗まで行きながら殿を守れなかった……」
うつむき、肩を震わせる伊織を、桜花はそっと抱きしめる。
「お願い、今は何も考えないで」
戦場に隼人を置き去りにしてしまったという自責の念は、伊織から生きる気力を奪ってしまう。
いくら桜花が力を尽くそうと、生きようとする意志のない者を救うことはかなわない。
痛みは楽になったが、体力はまだ回復していなかった。抗いがたい眠気に襲われ、伊織は瞼を閉じて再び深い眠りの底に落ちていった。