第129話 猫の手扱い
文字数 666文字
伊織に背中を押され、桜花は遠海行きの同行を願い出たが、到着した浜辺は想像していた以上の惨状だった。
すでにいたる所に救い小屋が建てられていたが、それでも中に入りきれない者たちが建物の陰で海風を避けている。
さながら戦場のように騒然とした中で、桜花は祖父の姿を探した。
注意深く人々の間をぬって歩き、何軒目かにのぞいた小屋に祖父はいた。横たわる者たちをひとりひとり丁寧に診て回っている。
祖父はかつては神官であったが、薬草の知識が深く優れた薬師でもあるのだ。
この小屋では怪我人より病にかかった者たちの手当てをしているようだった。彼らは慣れぬ異国での暮らしと戦で疲弊し、体を壊してしまったのだろう。
「おじいさま!」
病人の気に障らぬよう、小声で祖父を呼ぶ。
振り返った祖父は桜花を見て瞠目 した。
「桜花……そなた、伊織どののそばについていなくてよいのか?」
「大丈夫ですわ、おじいさま。伊織に言われて来ました。自分よりもわたしの力を必要としている人々がいると」
さようか、と祖父は眼を細めてうなずいた。
「さすがは伊織どの。まこと、わが孫娘はよき相手を伴侶に選んだものじゃ」
伊織と、ついでに自分まで褒められて頬を染める桜花に、
「正直、そなたが来てくれて助かった。猫の手も借りたいほど忙しいのでな」
「……」
猫の手扱いされるのは、いささか心外であったが、とにかく桜花は祖父の手伝いを始めることにした。
すでにいたる所に救い小屋が建てられていたが、それでも中に入りきれない者たちが建物の陰で海風を避けている。
さながら戦場のように騒然とした中で、桜花は祖父の姿を探した。
注意深く人々の間をぬって歩き、何軒目かにのぞいた小屋に祖父はいた。横たわる者たちをひとりひとり丁寧に診て回っている。
祖父はかつては神官であったが、薬草の知識が深く優れた薬師でもあるのだ。
この小屋では怪我人より病にかかった者たちの手当てをしているようだった。彼らは慣れぬ異国での暮らしと戦で疲弊し、体を壊してしまったのだろう。
「おじいさま!」
病人の気に障らぬよう、小声で祖父を呼ぶ。
振り返った祖父は桜花を見て
「桜花……そなた、伊織どののそばについていなくてよいのか?」
「大丈夫ですわ、おじいさま。伊織に言われて来ました。自分よりもわたしの力を必要としている人々がいると」
さようか、と祖父は眼を細めてうなずいた。
「さすがは伊織どの。まこと、わが孫娘はよき相手を伴侶に選んだものじゃ」
伊織と、ついでに自分まで褒められて頬を染める桜花に、
「正直、そなたが来てくれて助かった。猫の手も借りたいほど忙しいのでな」
「……」
猫の手扱いされるのは、いささか心外であったが、とにかく桜花は祖父の手伝いを始めることにした。