第55話 猛勉強
文字数 647文字
羅紗国は一千年以上の歴史を持ち、歴代の王朝は変わっても独自の文化と伝統を守り続けている。
この度、帝が強硬策に出た原因のひとつは、羅紗の鎖国政策にあった。
長い間、羅紗は国を閉ざしており、帝は幾度も交易の道を開いて欲しいと使いを出していたが、一度も返答はなかった。
それどころか今回の使者は国王に拝謁もできずに追い返され、帝の逆鱗にふれたのである。
そこに帝の信頼も厚い、甥の柊蘇芳が登場してくる。
野心家で勇猛な武人である蘇芳が、海外にも領土を広げたいという帝の望みに火をつけたのは、想像に難くない。
自分にできるのは、かの地に渡ってから、できるだけ早く戦を終わらせる方策を探すことだ。
その目的のためにも、現地で無用ないさかいを避けるためにも、言葉は必要だ。
とはいえ羅紗の言葉は表記も発音もひどく難しい。自分たちの使っている言葉とはまったく異なっている。
記号にしか見えない羅紗の文字を眺め、隼人は口の中で小さくうなった。この言語を学ぶのは苦労しそうだ。
誰か師でもいればよいのだが、あいにく羅紗の言葉を知る者は周囲におらず、独学にならざるを得ない。