第120話 喪失感
文字数 629文字
信じない。信じられるはずがない。約束したのに。必ず無事で戻ってくると。
いや違う。本当は自分が強引に約束させたのだ。隼人はずっと困った顔をしていた。
あまりに大きな喪失感に藤音は震えた。
明日からどうやって生きてゆけばよいのか。
泣きじゃくる子供をあやすように、如月はただ黙って優しく藤音の背中をさすり続けた。
藤音の毅然とした後姿が廊下の向こうに見えなくなると、伊織は大きく息をついた。
気力は尽きようとしていた。絶え間ない激痛で体がばらばらに千切れそうだ。
藤音を悲しませ、人々を落胆させるだけだったにせよ、役目は果たせた。あとはもうこの身がどうなってもいい。
ぐらりと体が傾ぎ、桜花の声をおぼろげに聞きながら、伊織はその場に倒れ伏した。
どのくらいの時が過ぎただろうか。
ゆるやかに瞼を開けると、寝かされていたのは城内の自分の部屋だった。かたわらでは自分の右手をしっかりと握ったまま、桜花が寄り添って眠っている。
声をかけようして伊織は言葉を呑みこんだ。
桜花は疲れ切った様子で眠りこみ、顔色もひどく悪い。
そうして気づく。あれほど苛まれていた身体の痛みが嘘のように楽になっている。
「まさか……」
思わず声に出してつぶやき、伊織は悟った。天女の末裔 である桜花は自分の持つ治癒の力を、限界ぎりぎりまで使ったのだ。
いや違う。本当は自分が強引に約束させたのだ。隼人はずっと困った顔をしていた。
あまりに大きな喪失感に藤音は震えた。
明日からどうやって生きてゆけばよいのか。
泣きじゃくる子供をあやすように、如月はただ黙って優しく藤音の背中をさすり続けた。
藤音の毅然とした後姿が廊下の向こうに見えなくなると、伊織は大きく息をついた。
気力は尽きようとしていた。絶え間ない激痛で体がばらばらに千切れそうだ。
藤音を悲しませ、人々を落胆させるだけだったにせよ、役目は果たせた。あとはもうこの身がどうなってもいい。
ぐらりと体が傾ぎ、桜花の声をおぼろげに聞きながら、伊織はその場に倒れ伏した。
どのくらいの時が過ぎただろうか。
ゆるやかに瞼を開けると、寝かされていたのは城内の自分の部屋だった。かたわらでは自分の右手をしっかりと握ったまま、桜花が寄り添って眠っている。
声をかけようして伊織は言葉を呑みこんだ。
桜花は疲れ切った様子で眠りこみ、顔色もひどく悪い。
そうして気づく。あれほど苛まれていた身体の痛みが嘘のように楽になっている。
「まさか……」
思わず声に出してつぶやき、伊織は悟った。天女の