第49話  真砂の居城

文字数 727文字

 三日後、隼人は真砂の領主、曽我氏の居城にいた。
 草薙の九条の城と、真砂の曽我の城は近い。馬を飛ばせば半日もかからない。
 隼人が送った文にはすぐに返書が届いた。お力になりたく存じ、一度こちらにお越し願えないかという内容である。
 さっそく隼人は和臣や伊織、少数の供だけを連れて真砂へ向かった。そして今、城の客間に通され、当主との対面を待っているところである。
「お待たせいたしましたな。ようこそ草薙から参られた」
 客間に入ってきた当主に隼人は深く頭を下げた。以前会った時より年老いてはいるが、精悍さは失われていない。
「お久しぶりでございます。曽我さまにおかれましてはご健勝のご様子、お喜び申し上げます」
「堅苦しい挨拶は抜きにいたしましょう。面をお上げくだされ、隼人どの。ご立派な当主になられましたな」
 感慨をこめて曽我兼光が述べているところに、そっとひとりの少女が入ってきた。
 年の頃は十三、四くらいだろうか、あどけなさを残しながらも、清楚で美しい顔立ちだ。
「これは孫娘の茉莉香(まりか)。覚えておいでかな。隼人どのが来られるというので、ぜひお会いしたいとせがまれました」
 記憶の糸を手繰りよせ、隼人は少女を思い出した。
 前に父に連れられてこの城で会った時にはまだ幼く、隼人になついてよく後をついて回っていた。
 自分に妹がいたらこんな感じかと、くすぐったい気持ちになったものだ。
「茉莉香姫、すっかりお美しく成長されて、すぐにはわかりませんでしたよ」
 姫はほんのり頬を染め、はにかむように笑いかけた。
「ごぶさたしております、隼人さま」




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登場人物紹介

九条隼人(くじょうはやと)


若き聡明な草薙の領主。大切なものを守るため、心ならずも異国との戦に身を投じる。

「鬼哭く里の純恋歌」の人物イラストとイメージが少し異なっています。優しいだけではない、乱世に生きる武人としての姿を見てあげてください。

藤音(ふじね)


隼人の正室。人質同然の政略結婚であったが、彼の誠実な優しさにふれ、心から愛しあうようになる。

夫の留守を守り、自分にできる最善を尽くす。

天宮桜花(あまみやおうか)


九条家に仕える巫女。天女の末裔と言われ、破魔と癒しの力を持つ優しい少女。舞の名手。

幼馴染の伊織と祝言を挙げる予定だが、後任探しが難航し、巫女の座を降りられずにいる。

桐生伊織(きりゅういおり)


桜花の婚約者。婚礼の準備がなかなか進まないのが悩みの種。

武芸に秀で、隼人の護衛として戦に赴く。

柊蘇芳(ひいらぎすおう)


隼人とはいとこだが、彼を疎んじている。美貌の武将。

帝の甥で強大な権力を持ち、その野心を異国への出兵に向ける。

阿梨(あり)


羅紗国の王女にして水軍の長。戦の渦中で隼人の運命に大きくかかわっていく。

白瑛(はくえい)


王都での残党狩りの時、隼人がわざと見逃した少年。実はその素性は……。

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