第143話 女の戦
文字数 637文字
「桜花さま、お願いがございます。どうか藤音さまのおそばについていていただけませんでしょうか」
如月の頼みに桜花は躊躇する表情になった。祖父の手伝いも忙しく、ようやくひとくぎりついたところを館まで駆けつけてきたのだ。
如月は桜花のためらいを察したように、
「祖父どのにはわたくしからお頼みいたしましょう。傷病者の手当ても大切なれば、館から手伝いの者をさしむけます」
何としてでも守らなくては。藤音と、生まれてくる赤子を。
隼人が行方知れずの今、藤音のお腹の子は草薙にとって大きな希望なのだから。
しかし、このままでは藤音は食事も満足に取れず、子供ともども弱ってしまう。桜花の持つ癒しの力が必要なのだ。
「男には男の戦 があるように、女には女の戦 がございます。今、藤音さまをお守りできるのは桜花さましかおられませぬ」
如月の言葉に重なり、伊織の言葉が甦ってくる。
──俺よりもっと桜花の力を必要としている者がいるはずだ。
胸の内でその言葉を何度も転がし、桜花はきゅっと手を握った。離れていても伊織はいつも勇気をくれる。迷う背中を押してくれる。
祖父も言っていた。この力は切り札だと。
桜花は決心した。今は自分にできる最善のことをしよう。
顔を上げ、まっすぐに如月に瞳を向けて、こくりと首を縦に振る。
「わたくしにできる限り……全力を尽くします」
如月の頼みに桜花は躊躇する表情になった。祖父の手伝いも忙しく、ようやくひとくぎりついたところを館まで駆けつけてきたのだ。
如月は桜花のためらいを察したように、
「祖父どのにはわたくしからお頼みいたしましょう。傷病者の手当ても大切なれば、館から手伝いの者をさしむけます」
何としてでも守らなくては。藤音と、生まれてくる赤子を。
隼人が行方知れずの今、藤音のお腹の子は草薙にとって大きな希望なのだから。
しかし、このままでは藤音は食事も満足に取れず、子供ともども弱ってしまう。桜花の持つ癒しの力が必要なのだ。
「男には男の
如月の言葉に重なり、伊織の言葉が甦ってくる。
──俺よりもっと桜花の力を必要としている者がいるはずだ。
胸の内でその言葉を何度も転がし、桜花はきゅっと手を握った。離れていても伊織はいつも勇気をくれる。迷う背中を押してくれる。
祖父も言っていた。この力は切り札だと。
桜花は決心した。今は自分にできる最善のことをしよう。
顔を上げ、まっすぐに如月に瞳を向けて、こくりと首を縦に振る。
「わたくしにできる限り……全力を尽くします」