第27話 刺ある言葉
文字数 563文字
考えこんでいる間にも、蘇芳と名乗った青年は藤音をじっと見つめ続けた。
「鄙 には稀な美女、とはよく言ったものだ。こんな田舎にかくのごとき美しい姫がいようとは」
無遠慮な視線が自分を眺めまわす。あたかも値踏みされているような不快感。
「このような美しい妻を持てるとは、いとこ殿は幸せ者だな」
供の者たちに向かって蘇芳が言うと、弾けるように笑い声が起きる。
が、藤音は気づいていた。
笑い声をたてながらも、その眼は決して笑っていない。
まだ陽も高いのに広間では酒がふるまわれていた。この城ではめったにないことだ。
「奥方どの、一献いただけるかな」
蘇芳の申し出に、藤音は少しとまどって夫の方を見ると、隼人は小さくうなずいてみせる。
求められた通り、藤音は蘇芳の盃に酒を満たした。蘇芳はそれを一気に飲み干すと、藤音にも勧めてくる。
「お気持ちはありがたいのですが、わたくしはお酒は飲めませぬので……」
「おや、残念。しかし似た者夫婦だな。二人そろって酒も飲めぬとは。生きる楽しみがないではないか」
そこでまた起こる笑い声。
顔にこそ出さないが、藤音は内心眉をひそめた。確かに隼人も酒はたしなまないが、だからといって人にどうこう言われる筋合いはない。
なぜだろう。蘇芳の言葉は端々に刺があって、あたかも悪意がこめられているかのように感じられる。
「
無遠慮な視線が自分を眺めまわす。あたかも値踏みされているような不快感。
「このような美しい妻を持てるとは、いとこ殿は幸せ者だな」
供の者たちに向かって蘇芳が言うと、弾けるように笑い声が起きる。
が、藤音は気づいていた。
笑い声をたてながらも、その眼は決して笑っていない。
まだ陽も高いのに広間では酒がふるまわれていた。この城ではめったにないことだ。
「奥方どの、一献いただけるかな」
蘇芳の申し出に、藤音は少しとまどって夫の方を見ると、隼人は小さくうなずいてみせる。
求められた通り、藤音は蘇芳の盃に酒を満たした。蘇芳はそれを一気に飲み干すと、藤音にも勧めてくる。
「お気持ちはありがたいのですが、わたくしはお酒は飲めませぬので……」
「おや、残念。しかし似た者夫婦だな。二人そろって酒も飲めぬとは。生きる楽しみがないではないか」
そこでまた起こる笑い声。
顔にこそ出さないが、藤音は内心眉をひそめた。確かに隼人も酒はたしなまないが、だからといって人にどうこう言われる筋合いはない。
なぜだろう。蘇芳の言葉は端々に刺があって、あたかも悪意がこめられているかのように感じられる。