第75話 好奇心
文字数 694文字
言うが早いか、踵を返す。
「あ、隼人どの!」
兼光が制止する暇もなく、軽い足どりで船底へと通じる階段を降りていってしまう。
呆気にとられる兼光の背後で、
「ああなっては、誰にも殿を止めることはできませぬ」
わずかに笑いを含んだ声がした。振り返ると、二人の若い侍が立っていた。
「そなたたちは?」
問いかける兼光に二人は丁重に頭を下げた。
「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。曽我さまにはこの度の羅紗行きに格別のお力添えをいただき、深く感謝いたします。われらは九条軍の副将を務める桐生元基が息子。わたくしは兄の和臣、隣は弟の伊織。殿の護衛の任についております」
「これは丁寧な挨拶、いたみいります。隼人どのはよき家臣をお持ちですな。して、止められぬとは、いかなる意味で?」
隼人が姿を消した階段の方に視線を投げ、伊織が口を開く。
「わが殿は好奇心が刀を差して歩いているような方。昔から何でも自分でやってみないと気がすまない性質 でございまして……。こちらの方々のご迷惑とならぬよう、われらも気を配りますので、どうぞしばらくのご辛抱を」
「なるほど、いかにも隼人どのらしいですな」
恐縮する家臣二人の前で兼光は豪快に笑う。
「心配ですので、船底の様子を見てまいります」
「では、わしもご一緒いたそう。隼人どのがどう櫓を操るか、いささか興味がありますでな」
「船に関しては、ずぶの素人ゆえ、すんなりとはいかないと存じますが」
とりあえず三人は船底へと続く木の階段を降りていった。
「あ、隼人どの!」
兼光が制止する暇もなく、軽い足どりで船底へと通じる階段を降りていってしまう。
呆気にとられる兼光の背後で、
「ああなっては、誰にも殿を止めることはできませぬ」
わずかに笑いを含んだ声がした。振り返ると、二人の若い侍が立っていた。
「そなたたちは?」
問いかける兼光に二人は丁重に頭を下げた。
「ご挨拶が遅れて申し訳ございません。曽我さまにはこの度の羅紗行きに格別のお力添えをいただき、深く感謝いたします。われらは九条軍の副将を務める桐生元基が息子。わたくしは兄の和臣、隣は弟の伊織。殿の護衛の任についております」
「これは丁寧な挨拶、いたみいります。隼人どのはよき家臣をお持ちですな。して、止められぬとは、いかなる意味で?」
隼人が姿を消した階段の方に視線を投げ、伊織が口を開く。
「わが殿は好奇心が刀を差して歩いているような方。昔から何でも自分でやってみないと気がすまない
「なるほど、いかにも隼人どのらしいですな」
恐縮する家臣二人の前で兼光は豪快に笑う。
「心配ですので、船底の様子を見てまいります」
「では、わしもご一緒いたそう。隼人どのがどう櫓を操るか、いささか興味がありますでな」
「船に関しては、ずぶの素人ゆえ、すんなりとはいかないと存じますが」
とりあえず三人は船底へと続く木の階段を降りていった。