第37話 空虚
文字数 597文字
なのに満たされない。
心にぽっかりと穴が開いているようで、何をしてもこの空虚は埋まらない。
多くを持ちながら、本当に欲しているものは、ひとつも手に入らないかのような……。
疲れを感じた。酒宴もどうでもいい。早く休みたい。
「隼人」
呼ばれて、隼人が蘇芳の方に向き直る。
「疲れたので、もう休みたいのだが」
「寝所の仕度ならできているよ。すぐにでも休めるようになっている」
「そいつは気がきくな。ついでに夜伽の女をひとり、つけてもらいたい。寒くなってきたのでな、温めてくれる女が欲しい」
だが、そんな申し出に、隼人はきっぱりと首を横に振った。
「前に来た時にも言ったと思うけど、この城にはそのような者はいない」
事実だった。城主の意向を反映して、ここには遊 び女 などの類は一切入りこんではいない。
「夜伽をする女のひとりもいないのか。まったく不粋だな。これだから田舎は嫌なのだ」
たちまち蘇芳は不機嫌になって毒づいてみせた。都では珍しくもないのに、いちいち目くじらをたてられて実に鬱陶しい。
「ならば、おまえの美しき奥方でもよいぞ。一晩、借してはくれぬか」
この言い草にはさしもの隼人も眉をひそめた。
自分はどう言われようとかまわないが、藤音への侮辱は聞き捨てならない。
心にぽっかりと穴が開いているようで、何をしてもこの空虚は埋まらない。
多くを持ちながら、本当に欲しているものは、ひとつも手に入らないかのような……。
疲れを感じた。酒宴もどうでもいい。早く休みたい。
「隼人」
呼ばれて、隼人が蘇芳の方に向き直る。
「疲れたので、もう休みたいのだが」
「寝所の仕度ならできているよ。すぐにでも休めるようになっている」
「そいつは気がきくな。ついでに夜伽の女をひとり、つけてもらいたい。寒くなってきたのでな、温めてくれる女が欲しい」
だが、そんな申し出に、隼人はきっぱりと首を横に振った。
「前に来た時にも言ったと思うけど、この城にはそのような者はいない」
事実だった。城主の意向を反映して、ここには
「夜伽をする女のひとりもいないのか。まったく不粋だな。これだから田舎は嫌なのだ」
たちまち蘇芳は不機嫌になって毒づいてみせた。都では珍しくもないのに、いちいち目くじらをたてられて実に鬱陶しい。
「ならば、おまえの美しき奥方でもよいぞ。一晩、借してはくれぬか」
この言い草にはさしもの隼人も眉をひそめた。
自分はどう言われようとかまわないが、藤音への侮辱は聞き捨てならない。